オネェ竜太郎2
「でねーっ、アイシャドウはやっぱりマーバリンの新商品が発色よくてしっとりしてて最高なのよーっ。カイトのも買ったけどラメが強いからさ〜でも大人っぽくキメるときはカイトね!」
「へぇ…」
あれから一週間。俺は竜太郎と昼食をとるのが日課になっていた。彼は毎日ツインテールやポニーテール、他にも色々な髪形をしてくる。毎日女子の制服だ。
180センチある彼の女装姿は目立つ。ぎょっとしている生徒も少なくない。俺はもう慣れてしまった。
彼と食べる昼食は美味しい。それに、竜太郎が明るく話してくれるのが、俺にとっては癒しになっている。分かりもしない化粧の話も、とても面白く感じるのだ。この一週間で化粧品メーカーに詳しくなってしまったのはご愛敬だ。
「そうだ。もうすぐテストでしょ〜?それ終わったら遊びにいかない?」
「遊びに…」
竜太郎と合うのは昼食の時だけだ。それに、俺は友人と遊びに行くことなんてほとんどない。遊びたいし、出掛けたい。俺は反射的に頷いていた。
「それじゃあ、テスト明けの土曜日はどう?」
「土曜日は…予備校もないし、大丈夫だ」
「よかった〜どこいこっか?」
竜太郎といると楽しいし、竜太郎の話をもっと聞いていたい。初めての友達に、俺は執着し始めていた。竜太郎は友達が多いし、俺以外に話すやつはたくさんいるんだろう。そう思うと、少し寂しい。
その後、どこに出掛けるかも決まり(商業施設の名前を出されたがあまり行かないのでわからなかった。竜太郎の希望通りの場所になった)、テストが始まった。
テスト期間は、午前中で終わりだ。竜太郎に会う事もない。…イライラする。癒されたい。
担任や親からの期待が鬱陶しい。ただ傍にいて、明るくふるまってくれる竜太郎は俺にとって大事な存在になっていた。
「ね、ねぇ賢道君」
「…?何?」
テスト最終日。突然クラスメイトに話しかけられ面喰った。今まで遠巻きにして話しかけて来なかったのに、どういう心境の変化だろう。
「テスト終わったらクラスで打ち上げあるんだけど、よかったらどうかな…?土曜日なんだけど」
「…土曜、は」
クラスメイトに遊びに誘われて、純粋に嬉しいと思った。だけど、俺が今一番合いたいのは竜太郎だ。
「ごめん、土曜日はもう遊びに行く約束してるんだ」
「そっか、ごめんね…。あ、よかったらその人も一緒にどう?」
いつの間にか俺の周りに人が集まっている。女子から詰め寄られ、断りづらい雰囲気だ。でも、竜太郎との約束がある。首を縦には振れない。
「…聞いてみる。返事は明日でいいかな」
「うん!ありがとう!」
翌日の昼食時、俺は竜太郎に打ち上げのことを話した。ふんふんと聞いた後、竜太郎はにっこりと笑う。
「いいじゃない!私も一緒に行くわ!うん、それがいいと思うの」
「え…でも、約束は」
「いいのよ気にしなくって!よかったじゃない。クラスメイトと馴染めないっていってたものね。第一歩よ!」
「…ああ」
そう、俺が欲しかった友達ができそうなんだ。喜ぶべきだ。そう思うのに、嬉しいと思わない。どうしてだろうと考えて、結論はすぐにでた。
俺は竜太郎が一番なんだ。他はどうだっていい。
(…なんて、そんなこと口には出せないが)
にこにこと笑い、いろんな話をしてくれる竜太郎。俺にとっては、誰より大切な存在だ。
「…打ち上げのこと、詳しく聞いておくから連絡先を教えてくれないか?」
「えっ、うん。わかったわ。そういえば今まで交換してなかったわね〜」
この日初めて、俺のケータイに家族以外の連絡先が追加された。
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