オネェ竜太郎
「光くんは出来る子ね」
「勉強も運動も完璧。すごいわ」
「自慢の息子さんねぇ」
そんな言葉をかけられ続け、俺が背負う物はしだいに大きくなって行った。
そして、高校二年の今――俺はその重圧に耐えきれなくなっていた。
「大学はどこに行くの?もしかしてT大?」
「勿論、有名大学でしょうねぇ」
「高校でもトップクラスの成績なんでしょう?」
部活にも入れず毎日予備校に通い勉強漬け。楽しい事なんて何もない。両親の期待にこたえようと今まで努力してきたが、そろそろ限界が近かった。
成績も伸び悩んでいる。何より、自分の勉強に対するモチベーションが続かない。
「…はぁ」
県内トップクラスの公立高校は流石に綺麗だ。私立ほどではないが、設備が整っている。小奇麗な食堂のテーブルで、一人ため息をついた。
「ねぇ、ここあいてる?」
昼時の食堂は混み合っている。しかし、俺のテーブルはがらあきだった。俺は成績一位をキープしており、周りからとっつきにくい性格だと思われている。距離を置かれても仕方がない。現に友人も…少ない。
近づいてくる生徒は珍しい。驚きながら顔を上げると、摩訶不思議な人と目が合った。
「…どうぞ」
「ありがとー。もうお腹ぺこぺこ」
茶色い髪をツインテールにし、顔には化粧。何故かズボンではなくスカートをはいている。しかし、どう見たって男だ。身長は180ある俺と同じ位あるし、肩幅は大きい。足もごつごつしている。
「あれ、なんで何も食べてないの?もしかして財布忘れた?」
「いえ、食べる気分じゃないだけで」
「駄目よ!お昼はちゃんと食べないと授業に身が入らないって!」
彼は俺に捲し立てると、券売機に行きその後カウンターへ向かった。戻ってきた彼はトレイを二つ持って帰ってきた。一つにはアメフト部御用達のどか盛り定食、もう一つにはオムライスがのっている。
何故か彼は俺の前にどか盛り定食をどんと置き、にっこりと笑う。
「はい!いっぱい食べるのよ!」
「……あの、これは」
「いいのよあたしのおごり!食べなって!元気出して!アンタ、さっきからしょんぼりしちゃって!」
ばしばしと背を叩かれ、力の強さに定食に顔を突っ伏しそうになった。彼は「あらごめんなさい」と言いながら、大きな手をあわせ「いただきます」と元気よく言った。
彼が持っていると小さく見えるスプーンでオムライスを次々口に運んで行く。俺は目の前の定食をじっと見詰めた。誰かから食事を奢られるのは初めてだった。
「あの、ありがとうございます…その、お礼を」
「あらいいのよ!あたしが勝手に買って来たんだから!」
「…それじゃあ、お名前だけ教えていただけますか」
俺がそう言うと、彼はぽかんとした後、あははと笑った。
「かた〜い!アンタ、そのネクタイ二年でしょ?あたしもよ!B組の諸星竜太郎」
「…男前な名前ですね」
「いい名前でしょ!」
見るからにオネェな竜太郎だが、どうやら名前にコンプレックスはないらしい。
「アンタは?」
「俺のこと知らないんですか?」
「知らないわよ!アンタだって私のこと知らないんだし不思議じゃないでしょー?」
確かにその通りだが、光は学年では有名だった。竜太郎も、おそらく有名な人物ではないかと思うが自分は知らなかったのだし、不思議ではないが。
「俺は賢道光、です」
「そう!よろしく〜」
何事もなかったかのようにオムライスを頬張る竜太郎に戸惑いつつ、光はどか盛り定食に箸をつけた。
いままで一人で食べていた昼食がまずく思えるほど、美味しかった。
……が、多すぎて残してしまった。竜太郎は光の残しをぺろりと平らげ、「そんなんだから貧相なのよ!」と光るに駄目だしを残し去っていった。
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