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(魔王視点)

「…まずい」

 魔界の入口に向けて投げられたものに覚えがあった。何故、あれを鶫君の友人がもっているのか。だいたい、察しがついた。

「あのひと、また…」

 頭が痛い。手を空に向かってかざし、魔力を放出する。なんとか魔獣を囲うように壁を作りだし閉じ込めた。しかし、このままではまずい。

「っ、鶫くん」

 鶫君はぼうっと空を見て放心している。鶫君の友人――主犯の男は微笑みながらそれを眺めていた。片手をふり、鶫君を主犯から遠ざけた。主犯はへらへら笑って俺を見上げる。

「あいつにかけた魔法は解除したよ」
「…そう、ですか」
「流石魔王だね。でも、いつまでもつのかな」
「…」

 主犯が魔界との境界に投げた魔法は、十中八九かつての魔王が使っていたものだ。
 
 魔界には理性のある魔族とそうではない魔物がいる。魔物は基本的に魔界からでようとせず、魔界の中で弱肉強食の規律の中で生きる。しかし、かつての魔王はその魔族を人間界を攻撃させるために使役した。使用された魔法は驚くほどに強力だ。

 そんなものを、この子供が使えるわけがない。誰かに授かったものだと分かる。

「…きみは、かわいそう、ですね」

 利用されていると、気付いていない哀れな子。

「何言ってんの?まおーさま」
「…」

 あふれ出てきた魔物たちで空が染まって行く。今頃、人間たちは大混乱していることだろう。魔王として、この事態をなんとかしなければならない。

「魔王様、ここはお任せください」
「…頼む」

 申し出た教職員の一人に主犯を任せ、鶫君の元へ向かう。俺は魔王だ。しかし、使える魔法には限界がある。

「鶫君」
「…ヴァン。あれ、は」
「…魔物です」
「またなのか」

 また。
 その言葉にこめられた意味に気付き、顔がゆがむ。

 人間はまた魔物に蹂躙されるのか――そう言いたいのだろう。

 呆然とする鶫君と目を合わせ、そっと抱きしめる。びくりと身体を跳ねさせる鶫君の首筋を、舌でなぞった。

「させま、せん」
「…っ、ヴァン?」
「だから、鶫君…僕に、少しだけ力をください」

 ぷつり、と牙を押し当てる。皮膚の破れた音、滲みでてくる血液に体中が沸騰する課のようだった。

 鶫君の血は、僕にとって特別な意味がある。
 魔力は補強され、今まで以上の力が出せる。そう確信していた。

「…ん、っ、あ」

 くたりと身体の力を抜いた鶫君を地面に寝かせ、手を空に向かって突き出した。

 魔方陣が、僕の手を媒体として広がって行く。流石に、魔力を放出しすぎたのか身体が熱い。しかし、やめるわけにはいかない。

 空いっぱいに魔方陣が広がる。
 魔族たちの動きが止まったのが目視できた。

「砕、けろ」

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