08
(鶫視点)
「魔王が…この学園にいる…?」
俺は呆然として、センセーを見つめていた。周りの魔族の教員たちは驚いてセンセーを見てる。つまり、センセーしかこのことは知らなかった…?
――はったりか?
いや、そうだとしても、言うことが大仰すぎる。
「は…、そんな嘘にだまされると思うのか?」
リーダーの男が、部下にセンセーを殴らせた。センセーは相手を嘲笑うだけで、殴られた跡すらない。
「我々は魔界に関連した組織を一斉攻撃している。そこから引き出した情報によれば、魔王はいまだに発見されていない!」
動揺する部下と、センセー達に怒鳴ったリーダー格の男は、今度は俺に目を向けた。
「こいつを殺されたくなければ、ゲートを開け」
髪をひっつかんだ男に、刃物を向けられた。魔力がこもっているそれを切りつけられたらひとたまりもないだろう。
流石にここでは死にたくない。
「…センセー」
「くくっ」
一応センセーに助けを求めてみたが、センセーは笑ってる。そりゃあ、俺一人の命と魔界なら、俺を捨てるだろう。
「…おまえら、」
センセーが何かいいかけたとき、遠くで爆発音がした。
「なんだ!?」
レジスタンスがざわつく。センセーはにやっと笑った。
「おまえら、本当についてないぜ」
そう言った瞬間。
ふわりと長い髪が、視界に入った。
「ヴァン…」
なんでここに。外に出るなって言ったろーが。ああ、でも、魔族がつかまってるから、助けに来たのか?
よくわからないまま、名前を呼ぶと、ヴァンはにこりと笑った。ヴァンは最初に着ていた服と同じような服を着ている。ただ、黒くて分厚い、高級そうなマントは初めて見た。
「魔族か!?貴様!!」
リーダーが叫ぶ。ヴァンは、ゆっくり俺たちの前まで歩いてきた。
「い、今人質を全員解放すれば、こ、ころし、ません」
どもった、いつも通りの言い方。なのに、声は今まで聞いたことないくらいに低い。
「何様だ貴様!」
「魔王様だろ」
後ろでセンセーの声がしたのと同時に、リーダーの男が吹き飛んだ。
「え…?」
ヴァンは指一本触れていない。それどころか、全く動いていないのに。何をしたのか、全く分からなかった。いや、もう、んなこたどうでもいい。
「魔王…?」
センセーとヴァンを信じられない気持ちで交互に見た。ヴァンは俺に近づいて、ほっとしたような顔をした。
「けが、は、は、な、いですか」
「あ、ああ…。おい、ヴァンが、魔王…?まさか…」
「本当だぜ。ヴァンタイン様、俺たちの拘束を解いていただけますか」
「…は、は、はい」
ヴァンが手を振ると、俺たち全員の拘束が解けた。センセーが敬語をきちんと使ったので、驚いた。レジスタンスはかなり動揺している様子だ。
「ふー、これで好きにできるな」
「よくもやってくれたなぁ、人間ども」
「魔王様の恩恵を仇で返すとは…皆殺しにしてやる」
教員たちが、なにやら物騒なことを話している。
「そ、そんな貧弱そうな男が、ま、魔王だと!?」
「魔王様を侮辱するのか!」
リーダー格の男の叫びに、校長を務めていた魔族が顔を真っ赤にして怒った。周りもそれに同調している。
「え、マジで魔王…?」
オタクは顔真っ青だ。そして口あんぐり。俺もこんな感じだが。つーか俺、魔王になんて態度とってんだ…頭なでるとか…おい、馬鹿か。死ぬわ。
「ま、魔王としての、の、めいれい、で、す。は、反抗勢力は、ぜ、全員捕縛。殺、殺さないよう、くれぐれもっ、!」
最後に言葉を強めたヴァンは、レジスタンス達の放った魔術を、何もせずに弾き飛ばした。見えない障壁があるかのようだった。
それを皮切りに、魔王側とレジスタンスで混戦に入る。――レジスタンス側の負けは目に見えてんだけど。
「…こりゃ、負け戦じゃねーの」
俺が呟くと、背後から聞き覚えのある声がした。
「だよねえ…」
「!?」
背中から引き倒され、再び捕まえられた。そして、目の前が光に包まれて――。
「うあっ…!?」
「!つ、つぐみ、くん!」
「動くな!魔族共!特に魔王!」
「くっ…オタク、てめぇ」
オタクは、俺に何か魔法をかけたらしい。体が動かない上に、心臓の鼓動がおかしい。
「魔王、あんたが鶫に肩入れしてんのはわかってる。…魔界への門を開け。そうすれば、解放する。もし、三分以内に要求が通らなかったら、鶫の心臓はとまる」
「なっ、てめぇっ」
「どうする?魔王」
オタクは、笑いながら泣いていた。
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