リク・不眠会長
眠い。眠くて仕方がない。
そんなことをぼやきながら、生徒会室を後にした。
俺、星太郎はここ一週間、全く眠れていない。
主にストレスと仕事によるものだと保険医には言われた。
確かに、眠れないだけでなく最近は胃も痛むようになってきた。
「……はぁ」
「星。なんだ腑抜けた面を晒しおって。生徒会長ともあるものが情けない」
俺に突っかかってきたのは風紀委員長の月山次郎。
その男前な顔をひっかいてやりたい、と思いながら俺は廊下を無心で歩く。
「無視をするな。貴様、僕を無視する気か?」
「うるせぇんだよ…ストレスの元が」
「なんだと?」
喚きだした月山を無視して食堂に入る。
ぱっと目に入った人物のもとへ、俺は早足で駆け寄った。
「陽さん」
「……星じゃねぇか。なんだ?何かあったか」
「あんたのせいで面倒な奴に付きまとわれてるんです。飼い犬の手綱くらいしっかりひいといてくださいよ」
「犬が多くて誰の事を言ってるのかわからねぇなぁ」
「……はぁ」
空野陽さんは俺の前の生徒会長で、この学園日のイケメンだ。そして……たらし。恋人が学園の中だけで何人もいて、それを堂々と公言している。呆れた人だ。
俺は眠気でふらつく体をなんとか椅子におしこめた。
「俺は今、いろいろ大変なんです。月山のこと、なんとかしてください。このままだと俺…」
「(涙目の上目遣いとは……)いや、すまねぇなあ。月山がお前に迷惑かけちまって」
「そう思うなら…」
「陽さん!」
俺と陽さんが放していると、月山が突進してきた。
「何故このような男と会話を!貴方には私がいるではありませんか!」
「ははは、そうだな」
「…はぁ」
俺はテーブルから離れようと椅子を引いたが、陽さんがそれを止めた。
「まぁ、良いから座れよ」
「…結構です。生徒会席に行きますから」
「まぁまぁ」
にやにや笑った陽さんは俺の頭をくしゃくしゃに撫でまわすと、勝手に料理を注文しやがった。
(このクソ野郎が…)
「最近眠れてるか?お前はいつも…」
「ご心配には及びません」
「じゃあこの、目の下の隈はなんだ」
「…チッ」
思わず舌打ちが漏れる。
この人は、全く面倒だ。俺のことなんて放っておけばいいものを。
「俺じゃなく月山に構ってやったらどうですか。さっきからずっと、しっぽを振って待っていますよ」
「飽きた」
「は?」
「あいつの犬っぷりには飽きたって言ってんだよ」
…サイテーだ。
この人はとんでもない最低野郎だ。
月山は陽さんの言葉が聞こえていないのか、うっとりと陽さんを見ている。
「あんたのそのスタンスには反吐が出る」
「なんで?俺は付き合う時に言ってんだぜ。一つ、俺を束縛しない。二つ、飽きたら別れる。三つ、他に恋人がいても文句は言わない」
「だからそれが…はぁ、もういいです」
陽さんの遊び人っぷりは何を言っても無駄だ。
それに、俺には関係のない事だ。
「でも、変えてやってもいいぜ」
「は?」
「お前が俺のものになるならな」
そういって、俺の目元にキスをする陽さんに、頭がくらっとする。
ただでさえストレスがたまっているのに、こうしてこの人はまた。
「お前が俺のものになるなら、他の奴は全員切ってもいい。お前だけをずっと見てる」
「……うるさいんですけど」
俺は先輩を引き剥がして、月山のほうをみた。
案の定、ショックを受けた顔をしている。
「なんで…」
「おい、月山」
「何故なんだ!」
「ぶっ!」
思い切り月山に殴られた。食堂が悲鳴で包まれる。
そのまま床に倒れ込んだ俺は、意識が遠のくのを感じた。
ああ、やっと寝られる……。
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