03
「あれ、兄上、…ん?」
「え?」
「太郎じゃないか」
「は?撫牛子…?」
なんだかよくわからない公太郎、そして顔を見合わせて動かない弟、撫牛子太郎と武庫川。
「…知り合いか?太郎」
「…うん、悪友…兄ちゃんなんで武庫川と?」
「いや、実を言うとマンションを買おうと思ってな…そしたら、目をつけていた物件が売約済みで…この人が譲ってくれるということで今からいくところで」
「…兄上、逃げましょっか〜」
「は?」
太郎が公太郎の腕をひっつかみ、走り出す。
「え、ちょ」
「あ!撫牛子てめっ、ふざけんな!」
背後で穏やかだった武庫川とは思えないような声が聞こえたが、公太郎はそんなことはどうでもよく。
「マンション!!」
「俺が優ちゃんにいい物件頼んどくからっ!武庫川につばつけられると厄介っしょ!?」
「いや、知らないが…」
老後もまったりと過ごせる場所があればそれでいい。
「待てって!待ってくださいっ!」
「…太郎っ」
「うぉわぁ!」
公太郎がその場でストップし、太郎が前につんのめる。
「はぁっ、追いついた!」
走ってきても息をきらしていない様子は流石だが、武庫川はどうにも不機嫌そうだった。
「撫牛子、お前邪魔するなよ」
「俺の兄上守ってなにがわるい?」
「ちょ…太郎、喧嘩はダメだ。武庫川さん、どうもすみません…」
「あ、いえ…えっと」
そういえば名乗っていなかった。
「あ、俺は撫牛子公太郎といいます」
「…撫牛子のお兄さんでしたか」
「あ、はい。えっと、弟の友人だそうで」
ろくでなしの弟に、こんなきちんとした友人がいるとは…と少し感動。
「はぁ…こうなったからには率直に言います」
「え、はい」
マンションのことだろうか、とぼんやり考えていると肩を掴まれた。
「え…っと」
「公太郎さん、俺と付き合ってくれませんか」
……うん?
「…何にでしょうか」
「つまり、恋人同士になってほしいんです」
「…はぁ」
今時同性愛云々は言えないなァ、とぼんやり考える。
「いえ、でもお会いしたばかりですから…」
「はい。だからこれから…」
「まってまってまって、武庫川くーん?」
太郎が二人の間に割って入る。
「あのね、兄ちゃんは興味ないの、恋愛に!老後がつつましく送れて、うさぎがいて、物件のチラシ見れたら幸せな人なの。だからあんたの特殊性癖にまきこまんといてくれはりますかね!?」
「太郎、落ち着け。混乱しているぞ」
「そりゃそうだって!」
兄が武庫川の罠にかかろうとしているときに、落ち着いていられますかということだ。
「公太郎さん、俺、こう見えても社長でしてね」
「えっ」
「結構大きな企業です。もしも公太郎さんが俺と結婚を前提にお付き合いしてくれるというのなら、うさぎも何匹だって買いますし、物件もなんなら別荘とか建てます。ですから付き合ってください」
「ええ…」
そこまですんの、と太郎は呟く。そして公太郎はうーん、と考えてから。
「…お友達からお願いします」
言外に、了承したのだった。
太郎が頭をかかえ、甘地になんとかしてくれと泣きついたのはその一時間後だった。
(おわり)
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