廻栖野×甘地(6月)




「転校生?」
6月。俺はその言葉を聞いて非常にいらっとした。ただでさえあの馬鹿総長が気に入った馬鹿、音無楓太のせいで学校がひっかきまわされた後なのだ(本人はおめでたいことに皆に好かれていると信じ込んだまま転校していったが)。
新入生も入学し、総長は不在のまま。いまや学校はばらばらで、最近ではまじめに通うのもばからしくなり、親戚のバーで昼間から溜まっていることも多い。
「いや、その人すげーんすよ!5月ごろきたんすけど!」

目をきらきらさせながら語る田中。同い年だが、副総長の俺とも気兼ねなく話せる変な奴だ。
「山田と中田のしちまって!それに幹部もたおしちまったらしいっす!」
「倒した?あいつら喧嘩で負けたのか?」
「いえ!じゃんけんっす!」
…。
じゃんけん…だと…?

「お前たちは馬鹿なのか…?」
「え?だって勝負は勝負でしょ」
あほだ、あほがいる。
そうだこいつらは…馬鹿なのだ。俺たちは馬鹿学校の馬鹿な総長のチームの馬鹿な部下だったんだ…。
「あ、でも幹部の男山さんは喧嘩ふっかけましたよ。ふざけんな!っつって」
「そりゃあそうだろうな」
「でも、そいつの勝ちっす」
「…強いのか」
「はい」

飲んでいたウーロン茶のグラスをカウンターに置く。俺を見ていた田中は若干俺から距離をとった。
「…副総長、顔、こええっす」
「…そうか?」
「すんげえ凶悪な顔してますよ…すんげえ凶悪で楽しそうな顔」

男山は前総長の右腕ともいわれた奴だ。俺は勝ったが、あいつに勝てる奴はすくない。
「行くぞ」
「は、はい?どこにっすか」
「そいつんとこ。名前は?クラスは?」
「え、あ、えーと。甘地優。一回だぶってて今年で17っす…でも、副総長、あの」
「んだよ」
「多分、喧嘩むりっすよ」

田中の言葉に俺の足が止まる。
「俺が勝てねえって言いたいのか?」
「いや、そうじゃなくて…」
「なんだ。はっきり言え」
「…あいつ、モロ…」
「?」

「モロ副総長のタイプっすよ!!」

「…はあ?」
俺のタイプってなんだ。まさか好きな奴のタイプか。
「おい、俺は確かにバイだが男山をやっちまうような奴はご免こうむるぞ」
どうせでかくて筋肉つきまくりの熊みてえなやつだろ。
「いや!モロっす!副総長のタイプは”笑顔が可愛くて癒される、色素薄い系の身長170前後、華奢な感じ。性格はおっとり系、家事全般得意、旦那に三歩下がってついていくタイプ”!!」
「…俺ってそうなのか?つーかそれは女の場合だろうが」
「モロなんす!モロあいつですっ」
…絶対ない。
男山をぶった押すような奴が華奢でたまるか。

「お前おれをからかうなよ、殴るぞ」
「本当なんすよ!」
ああ。
この馬鹿トリオ(の中の一人)、どうにかなんねえか…。

そう思っていた俺は、甘地とあった瞬間その考えを改めることとなった。



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