(異説)










これはきっと永遠の雨。しとしとと降りつづいて止むことを知らない。あたりにはおれの気配しかしない。生きとし生けるものの音はすべて空間に吸い込まれたかのよう。この世界にはおれだけがたったひとりで放り出されているんじゃないか、っていう気さえするくらいだ。目を閉じて昔(っていっても多分ほんの少し前のことってだけだ)を思い出す。こことは逆で乾いた土地だった。砂漠だらけのその土地を、別世界から飛ばされてきた尻尾のある少年と駆け巡ってクリスタルを探した。彼とはかなり気が合った。こともあろうかひとりで行動しようとしていたクールすぎる青年におれの身代わりともいえるくらいの大事なお守りを渡したら汚いとかなんとか言いながらも最後まで持っててくれたっけ。懐かしいな、そんなに前のことじゃないはずなのに。あのあたりではこんな雨は全然降らなかったなあ。ここはどうしてこんな雨ばっかなんだ、

(だれもいないなあ、)

気づけばいつもあのふたりのどちらかは、おれの隣にいた。馬鹿言ったり突っ込まれたり時に無視されたり。いるのが当たり前で空気みたいで、いなくなったらなんて考えたこともなかった。でもいまのおれの隣には、つやつやの金髪もなければさらさらの茶髪もなかった。たしかに、なかった。耳に届く音といえば雨音だけ、それは強くも弱くもならずただ淡々とリズムを刻んでいた。

(ひとり…?)

受け止めたくなかった事実は少しずつ顕在化しておれを縛ろうとする。なんだあいつら、どこまでほっつき歩いてったんだ? しょうがないな、いつまで道草食ってるつもりなんだ? いつから姿が見えないんだ、いつから雨が降りだしたんだ、いつからまわりの気配がしなくなったんだ、

いつからおれはひとりなんだ?




サア、と突然雨音が弱くなった。あたりに渦巻いていた違和感がスッと消える。パズルのピースがはまったような感覚、気づくとカラカラの乾いた大地の匂い、ああたしかに馴染みのある風景、それならさっきまでのはなんだったんだろう。記憶に蓋をされたみたいにそこだけが抜けている。
そしてたしかに感じる、息づくものたちの近づく気配。

「おーい、バッツー!」

つやつやの金髪とさらさらの茶髪が、埃っぽい砂漠の風に吹かれながら駆けてきた。

「戻ってきたんだな、よかったー!」
「……やはり、空間の歪みに取り込まれていたのか」
「いきなりいなくなっちまって…ほんと、どこ行ったのかと、」

光るものを青緑の瞳にたたえて、声を詰まらせた彼。その肩を抱く。きっと必死で捜してくれてたんだよな。自分より小さいその体、だけど人一倍気い遣いで優しくて男前なの、おれ知ってるぜ。
そんなおれの肩に黒い手袋をした手がそっと置かれた。「……余計な心配をさせるな」おお、それ相当レアなお言葉じゃんか。絞り出してくれてサンキューな。無愛想でカッコつけだけどじつは熱いハートの持ち主だってこと、おれ知ってるぜ。




一緒にいられるのが当たり前じゃないことに気づいて無性に愛しくなって。ふたりを同時に腕のなかに閉じ込めたら笑い声と溜め息。もうあそこへは行きたくないな。ぼんやり掠れる意識の中でそう願った。








2011/06/25 15:25



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