(異説13回目)











なあ、オレとクラウドって、前に会ったことない?


テントを張っている時に突然声をかけられたかと思えばとんだナンパに遭ったものだ、しかも相手は男である。その台詞を聞いた俺がどんな顔をしていたか分からないがティーダは途端にきまり悪げな顔をして、「そういう意味じゃなかったっス」と焦った。「知ってる、」彼をフォローするつもりもなかったが少し可哀想になったのは確かだ。
「で? 記憶がなにか戻ったのか?」
もしかすると彼の元の世界に、俺とよく似た奴がいたのかもしれない。顔も声も浮かばないままで、なんとなく性格や雰囲気だけが思い出されたとしたなら。記憶の保有率や思い出す要素・タイミングには個人差があるようなので、突然こういう話が持ちかけられるのもまあ、別段不思議なことではなかった。

「最近、毎日のように夢を見るんだ。この秩序の戦士たちを、ひとりひとり殺してくの」
「……」
「でもクラウドはいつも横に居てオレを黙って見てるんスよ」
「…なんだ、それ」

なんだもなにも俺はそれを知っている。きっと。
胸が詰まる。脳がキシキシ不協和音をかき鳴らす。
いやな予感がする。思い出してしまうのかもしれない。いや、すでにもう。
紅くおどろおどろしい大地。機械のように次々と刃向かってくる秩序の戦士をティーダは律儀にひとりひとり葬った。息絶えた戦士たちの身体はキラキラとした光の粒になって真っ暗な空に昇った。彼の目は血走って凄みのある表情を貼り付けていたけれどそれに伴う中身は無いらしく身体中が小刻みに震えていた。
こんなのはこいつには似合わない、そう思ってはいたけれど、かと言って自分が手を下す気にはなれず、ただ茫と彼の「仕事」を見ていた。

「そういえばティナは殺さなかったな」
「……女、だからじゃないか」
「そっか。あれクラウド、顔色悪い?」

元の世界の記憶なんかじゃない。紛れもないこの世界の記憶だ。

「まあでも無理ないよな。オレもその夢見たら、寝覚め悪いったら」
ティーダの声はするするとふわふわと、意識の上を滑る。無意識に、深層まで取り込まないようにしているのかもしれない。その記憶が戻ることによるデメリットはあってもメリットはないだろうことが容易に想像できるから。今はこの秩序軍のメンバーと一致団結して混沌軍に向かっていかねばならない時だ。余計なものはすべて切り捨てて、時には大事なものさえ切り捨てて、進まなければならないのだ。

「だからさ…クラウド、今日のテント、一緒にしてもらっていいっスか…? いつもフリオと一緒なんだけど、なんか…気まずくて」
どうやらそれがいちばん言いたかったことらしい。
俺は少し脱力して、それならそれだけ言ってくれれば良いのに、と思ったりもした。理由なんて特に詮索しなかっただろう。でも理由を説明したのは彼なりの気遣いだろうし、こんなディープな内容の話は誰にでもおいそれと出来るようなものではないだろうから、それを話してくれたことは素直に嬉しかった。

「わかった、フリオニールとセシルにはそう伝えておく。その二人にティーダのテントを使わせてやればいい」
「ん、ありがと」
そこで初めてティーダは少しだけ笑った。やっぱり笑顔が似合う。こんなふうに笑う人を俺は元の世界でも見た気がする。晴れの日の太陽のように、笑う人。

「…もう、こんな世界に二度と喚ばれないように」
今度こそ混沌軍を倒して、元の世界に帰らなければ。
「なんか言ったっスか?」
少し前を歩いていた彼が振り返る。
「いや、ティーダが来るなら晩飯が期待できそうだな、と」
「またまたぁ〜、逆にクラウドはいっつも何食べてんスか」


忘れていい記憶なんてひとつもないけれど、少しくらい目を反らして誤魔化すのは別に悪いことじゃないと思いたかった。
もうすぐ俺達は紅い大地に乗り込む。












2013/01/10 11:52



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