※異説(12回目)














君のそばにはいつもだれかがいたような気がするのに、どうして君は「ひとりぼっち」だなんて思っていたんだろう。なんて、愚問かな。君をひとりにしたのは、他でもないこの僕なのに。

ああ、無慈悲なものだね。この記憶は、きっとこの体が粉々になって灰になって煙になって空に溶けるまでずっと、遺りつづけるようになっているんだろうね。ここの空はひどく紅くて胸がつまる。あの日、君とその仲間がやってきたとき、情けなくも崩壊することでしか自分を守れなかった僕の姿に似ているから。僕はたしかに愚かだったよ。緑色の草も、黄色い花もみんなみんな焼き尽くして最後に残ったものはどこか青い空っぽの心。

償うために喚ばれたのかといえば、違うようだったけれど。僕はこの世界で一匹の小鳥を逃がした。良いことだったのか悪いことだったのか今でも答えは出ないけれど、彼女は居るべき場所に居なかったから、それがひどく厭だったんだ。彼女の瞳に光が戻ったのなら何色だったんだろう、なんて考えることはある。でもきっともう、会うことはない。それが定めで、そうあるべきなのだから。

このバカチンがァー!
馬鹿はどっちだい、君の声ほど耳障りなものもないよ。短絡的な思考ばかり巡らして実に浅慮だね。
はぁ? 「裏切り者」のくせにエラッソーに何言っちゃってんですかねー? もしかして〜脳ミソすっからかん?

ただ憎くてたまらなかった、白粉を塗りたくった底の見えない面。
あのとき僕のしたことは我ながら自分らしくないと思ったし、どちらかといえば気が違ったという表現がしっくりくるほどだったんだろう。君を守りたい、助けたいだなんて、そんなことを願う資格があったかすらわからないのに。
君はこの世界でもやっぱりひとりじゃなくてまわりにだれか知らない仲間がいて、安堵したと同時に、ほんの少し胸が疼いた。

ぜーんぶ! ぜんぶ! ハカイしちゃえば、よかったのにー?

今になってようやく、キィキィ騒ぎ立てていた道化にもどこか青い空っぽの心があったのだと、知る。哀しいね、と冷やかして唄えば、その言葉そっくりそのままアンタにリフレクー!、とからかって踊った。認めたくはないけれど、たしかに近しいものを抱えていたのだと。



思い出は引き出しにしまっておこう。そう簡単には開けられないほど、深く奥底へ。なんたって、必要ないものだから。



ふらふらと飛び続けていつの間にか海を超え、青い大陸に白い光が立ち上る場所へとやってきた。
もう何年も聞いていなかったような気すらする人の声がいくつか、遠くかすかに届いた。なんだろうね、この安堵感。抱かれているような、あたたかくて、信じられないけれど、この世界にもこんな場所があったのだね。僕はきっと享受することを赦されない、けれどせめてもう少しだけ、

「何の用だ」

流れる空気さえ斬れそうな気配。 2本の長い角をもつ兜をかぶった男が射るような瞳で僕を突き刺した。光の戦士、か。

「貴様は秩序の戦士では……ないな」

スッと向けられる剣先をとらえた脳がぐらりと揺れる。そのまま眩みそうな視界をなんとか揺さぶり起こしてふたたび浮き上がる。彼の瞳は氷のように冷たい色をしているのに炎のように激しい光を湛えていた。僕の深層が無意識に拒絶しているのがわかる。真っ直ぐすぎるものはそれだけで、怖い。

「何もしやしないよ、もう」
「………」
「僕は秩序の戦士でもなければ、混沌の戦士でも、ないから」
「…どういう意味だ?」
「……ただ散歩していただけ」

何故だろう息が苦しい。しかしさらに高度を上げた。男は少しずつ小さくなっていく。それでもこちらを見上げて未だはっきりした答えを請うている初対面の彼を、嫌いじゃない、と思った。だけど僕はここにだっていられないから。

「さようなら、世界が滅ぶ日まで」



不意にぐにゃりと歪む体。心。景色。遠ざかる空、近くなる地面。目の端にほんの少しの滴が跳ねる。薄れる意識の最後の切れはしに、静かに狼狽した光の戦士の顔を見た気がした。
小鳥も、道化も、光の戦士も、そしてひとりぼっちだった君も。こんなに長いようでこんなに短い時間の中で、僕の心に根付きすぎた。今更、もう何だって出来やしないのに。



ゆれながら、どこへいこう。
ゆれながら、僕の意識は運ばれていく。
ねがわくば、誰もいない何もない真っ白なところへ行けたなら。
もうなにも、遺らないように。







2013/01/05 11:03



<<


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -