※「名を呼んで、名を告げて」(10→10') の2side
(このお話からでも読めますが、10親子のお話を先に読んでくださったほうがわかりやすいかもしれません)















「…フリオ」
「どうした?」
「なあ、またアレちょうだい」
「…眠れないのか?」
「……うん」
「あまり続けて飲むと、身体に良くないぞ」
「いいから、なぁ、」
「仕方無いな、くれぐれも飲みすぎるなよ」
「うん、ありがと」




ティーダはたしかに幸せそうな顔をしていた、と、思う。それが俺の希望的観測に過ぎないと言われれば首を縦に振らざるをえない部分があるにしても。ありがと、と紡がれる片言はおぼつかなく、まるで言葉を覚えたての幼い子供のようなのだ。俺の行為によってその言葉が生まれることに、酔いしれていた。

「フリオニール」
「…千客万来だな」
「また、今日もあげたの?」
「……」
「沈黙は肯定だよね」

捲られたテントから、一日中暗い空がちらりと覗く。その空と対照的な、銀に光る髪がほんの弱い風に揺れている。
セシルの言葉は穏やかながら、研ぎ澄まされた針のように真っ直ぐで、俺を見抜いて、見透かしているのだ。どこまでも。

「ティーダはいつまで、ああなのかな」
「……」
「フリオニールはどうしたい?」

合わされていないのにもかかわらず強い視線を感じながら、俺はひたすらに瓶の中の液体をかき回すという行為に逃げていた。
何種類かの薬草をすり潰し、水と混ぜたものを煮詰める。最後に濾して上澄みを取りだしたそれは、一見するとただの水。
俺はどうしたい? 自分に問い掛けてみる。答えなんて出ないと、そもそも出す気がないと知っていながら、形だけでも問い掛けてみないと、痛いほどの紫色の視線を宥められやしなかったから。



きっとあの日から、ティーダがジェクトを倒して夢の終わりから抜け殻のようになって帰ってきた日から、少しずつ歯車が狂いだした。
皆がテントを建てて休み始めるとどこからかふらふらとやってくる。たまたま眠り薬を作っているところを見られ、ねだられてからは、毎日作って渡し続けている。日毎に彼の足取りがおぼつかなく、視線も定まらなくなっていくのを一番近くで見ていながら、なお。
ありがと、そう言って瓶を受け取ったその一瞬だけ、以前のティーダが戻ってくるんだ。俺の大好きだったティーダの笑顔が。
その一瞬のためだけに、薬作りはいとも簡単に習慣化した。ティーダの中での俺の存在価値が、ほかの仲間よりも少しでも抜きん出ていることを実感できたからだろうか。その先に文字通りなにもないのをどこかでは知っていて、それでもなおルーチンを繰り返す俺は、愚かだろうか。
あのとき、渡さなければ。あえて考えないようにしていた「もしも」だ。
俺がもう少し強かったなら、できたのかもしれない。


眠れないのか、なんてなにも知らないかのように訊く自分は狡いし弱い。薬を受け取ったティーダがよろよろ帰った後、いつもこっそり彼のテントを覗きに行って、顔色は悪いながら満ち足りた表情で眠っているのを、全部見ていて知っていて。それを守りたいと思うのは、きっと優しさなんかじゃない。


「…あいつにとっての幸せとは、何だろうか」
「この世界では、手に入らないんじゃないかな」
それは僕もだけどねきっと、と笑うセシルの顔はさらさらの砂で作った城のよう、きっとすぐにはらはらと崩れてしまうのだ。なんて世界だ。
答えは出ない、否、出すつもりがないだけなのかもしれない。俺は黙ってセシルに背を向け、ランプの灯りを消した。



今日もティーダは夢に溺れている。
もういっそそのまま深海まで沈んで、帰ってこなくても良いと。
思う俺は、柄にもなく反逆者なのかもしれない。












2012/06/01 19:57



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