(異説12回目、8も申し訳程度に登場)



















あーあ。また、やっちまったみたいだ。
とはいえ何がいけなかったのか全然分からない。こんなに優しく、こんなに心を込めて、こんなににこやかに、
「こんなに紳士的に、話しかけたというのに!!」



あら。思ったより声大きかった? どこか冷めたような灰青の瞳と、潤んだ青と緑の瞳(左右で色が違うんだよな、あれなんて言ったっけ…ポッドアイ…いや違う…モッドアイ…だ、そうそれそれ!)が同時にこちらを向く。
「ラグナ、うるさいぞ」
「だ、大丈夫ですか…?」
「やめろってユウナ、ほっとけよ。調子乗るだけだしさ」
「おいおいヴァン君、黙って聞いていればずいぶんとひどいじゃないか、ええ?」
「全然黙ってなかっただろ、よく言うよ」
撃沈した俺にふわりとかぶさる影。見上げればモッドアイ。乾いた大地に咲く一輪の花みたいだ。
「もしかして、またスコールのこと…?」
あ、全部お見通しなのね。俺は多分相当情けない顔で頷いた。




そうなんですよ、スコール君がね。どう―――しても口を聞いてくれないんですよ。俺、何かしたっけかなー? そりゃあ上着かぶって「我は漆黒の獅子!」とか、ガンブレードぶっ放しながらロープにぶら下がって「今の俺は誰にも止められないぜ!」とかやりましたけど、それはまあ交流の一環と言いますかね、できるだけフレンドリーに接することで心の壁を打ち砕きましょうってかね、そういう意図があったわけなんですよ。あれ、二人ともどうした?
「ユウナ、行こう。ライトニング達が待ってる」
「う…うん、そうだね」
おいおいどうして目を反らす!? 待ちなさい、まるで最初から視界に入ってなかったみたいにナチュラルに反らさないで!
それでもまだ迷いがあるモッドアイをぐっと捕らえて、最後の一押し。
「お願い! スコール見つけたら連れてきて…くれねっかな!?」
すかさずヴァンを見るモッドアイ改めユウナちゃん。そこでヴァンの顔色窺わなくていい! いいから!
しょうがねえなあほんとに27歳かよ、とぶつくさ言いながら後ろ手を組んで歩き出したヴァンを見てユウナちゃんは少しほっとしたように「じゃあ見つけたらお話しておきますね、今度こそは頑張ってください」とまるで天使のような微笑みを残して去っていった。
「できるだけ自然に! ナチュラリィに頼むよー!」
何より不自然なのはあんただろ!とヴァンの声が小さく返る。もう結構距離はなれてんのにな、それでも聞こえるってことは、ヴァン君たらいつになくでっかい声で叫んだのね、とかどうでもいいことを考えながら、しばしそわそわする落ち着かない時間を過ごした。




「……ナ、ラグナ」
「あー…うん、もしもし…あと60分……」
「おい、ラグナ! 起きろよ」
「……ん…おぅっ!?」

勢い余って起き上がった拍子に頭をぶつけそうになったが、持ち前の素早い身のこなしで避けたのは…あら、ヴァン君。
「いくら次元城が気持ちいいからってな、仮にも敵陣なんだぞ。なんで寝てんだよ」
なんか説教されてんな…きまりが悪くてキョロキョロと辺りを見回すと、城壁の陰に人影をふたつ見つけた。あ、あれは、もしかしなくても…!
「す、スコールじゃねーかー!」
ユウナちゃんが小さく目配せをしてきて、俺は堂々とOKサイン。相変わらず気力の足りないような声が横から「なんでもいいからとにかく普通にしとけよ」と呟いた。




俺はゆっくりとスコールに近づいた。確かに今までは少し刺激的すぎたかもしれない。
スコールの顔は相変わらず整っていて、男の俺でもしばらく眺めていたくなるほどで、でもそれ以上に何かこうもっと別の、胸にひっかかるような何かが俺を揺さぶって止まらない。脳内がピリピリする、記憶の戻る前みたいな不思議な歪んだ感覚。今もほらやっぱり呼び起こされる、
「……何か用があるのか?」
スコールの声はどこかなつかしいような響きをもつ。その声もまた、俺を揺らす。
いつもみたいにノリで近づかないと、やっぱりダメだ。あんなに色々、脳のみならず身体中を埋め尽くしていたほどのスコールへの言葉が全部真っ白になってしまって、俺らしくなく戸惑う。なんかこう、もっとなあ。明るく朗らかに楽しく話したいだけなんだけど、なあ

「スコール君、手を出してみなさい」
「断る」
今、0.1秒も考えなかったよね。
「君にプレゼントをあげ「断る」
「遠慮なんていいから! ほれほれ」

無理やり手の中に押し込めて、じゃあな、と踵を返す。こうでもして誤魔化さないと間がもたなかった。なんて、なっさけねーなー、俺。イケメン目の前にして真っ白になるとか、どこの女の子よ。
まあ今回はな、さすがの俺も学習したわけよ。力技はやめる。本当のいい男は拳よりハートにものを言わせる、ってね。
数日前に時空の歪みを通ったときに偶然落ちていた、イヤリング。オシャレ度のみならず攻撃力も上がるらしいよ? あのライトニングさんが言ってたからおそらく間違っちゃいねえ。そんな粋なプレゼントなんて俺、かなりレベルアップしたんじゃねっかな? かな!? さすがのスコールも今日ばかりは俺のことを…あれ、怖い顔してどしたのヴァン君。
「おい、なんかスコールがすっげえどす黒いオーラ放ってんだけど、何やったんだ?」
「え? 何をおっしゃいますかこのたぐい稀なるセンスのラグナさ「これで……終わりだ!!!」
空間ごと割れるような轟音と衝撃、俺はいとも簡単に意識を手放した。




気がつくと秩序の聖域にいた。とにかく身体中が怠い。誰かがポーションかけてくれたかな、痛みはないんだけど身体を起こせない。
ようやく目を開けると、呆れ顔がひとつ、心配顔がひとつ。
「あー、まった派手にやられちまったなー」
「一応、ポーションはかけたんですけど…」
ああ、やっぱりユウナちゃんだったのね。サンキューサンキュー。
「最強の馬鹿ラグナさんにスコールさんから伝言です」
「…ヴァン君? めったなことを言うもんじゃないよ?」
「『いきなり人の手にピタットボムを張り付けてくるとはどういうつもりだ。油断していた俺にも落ち度があったが、今後一切近づくな』」
「え…ぴたっと……え?」
「だそうです以上」
「えっ、えっちょっと! 話が見えないんだけど!?」
怠そうに他の仲間達のところに歩いていくヴァンを引き止めようとようやく立ち上がったとき、ユウナちゃんに呼び止められた。
「ラグナさん、なにか落としましたよ」
「おっ、あんがとさん! って…これがどうしてここに!?」
最高にイカす、オシャレ度と攻撃力同時アップのイヤリング。
「ラグナさん…もしかして、まちがえて、スコールに、いつもポケットに入れてるボムのほうを、渡しちゃったんじゃないですか…?」


その瞬間、時が止まったね。


「あああああやってしまったああああ!!!」
「ラグナうるさい」
「まったく、呆れて言葉も出ないな」
「スコールに心から同情するわ…」
「…フッ」
「で、でも皆さん…! ラグナさんだって、悪気があったわけじゃないですから」





それからというもの、スコールは冗談じゃなく本当に一言も口を聞いてくれなくなって、渡そうとしたイヤリングは行き場を失ってなぜか俺の耳についている。もうポケット関連の場所には死んでも入れないと誓った。
誰かにこのと〜り〜このと〜り〜って頼み込んで渡してもらうこともできたけど、やっぱりいつかちゃんと自分で渡してえよなって。
それがいつになるのかは…残念ながらまったく見通しが立っていないのが、悲しい現実でございます。








2012/05/09 13:37



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