(異説13回目、10ストーリーの後。10'は出ていません)
*FF10(原作)の舞台設定の描写有
















「…フリオ」
「どうした?」
「なあ、またアレちょうだい」
「…眠れないのか?」
「……うん」
「あまり続けて飲むと、身体に良くないぞ」
「いいから、なぁ、」
「仕方無いな、くれぐれも飲みすぎるなよ」
「うん、ありがと」


貰った眠り薬の瓶のコルクを開けかけては閉めてまた開け、キュッポキュッポ鳴らして遊びながらふらりふらりと自分のテントに戻る。
あの日から、オヤジが消えた日から(オレが消したようなもんだけど)、何もかもが分からなくなってずっと頭がグルグルしていた。
もともと、そんなに分かっちゃいなかったんだけどな。この世界のこととか、自分の存在意義とか、何も知らなくて知らされなくて、ただオヤジと戦わなきゃいけないって意思だけが異常なまでに強くオレを支配してて、オヤジが憎くてたまらなくて、夢の終わりまで行って剣、振るったけど、ズタズタに弱ったオヤジが光に包まれて消えたとき、思ったんだ。
オレ、なんのためにここまで来たんだろう?って。
なにをしたんだろう?って。


狡いんだ、オヤジは。自分だけやりたいことやって言いたいこと言って、消えちまう。いつだってそうだ。オレはいつだってどこでだって、あんたの背中を見ることしかできなかった。知らないだろうけどさ。
だいたい、勝手すぎるんだよ。どうしてあんなふうに消えなきゃいけなかった? そもそもどうして敵同士だった?
どうして、オレはあんたに剣を向けなきゃいけなかったんだ?


キュボッ、遊びすぎたせいか煮え切らないような変な音がしてコルクが外れる。透明な液体は少し酸っぱいような臭いがして、それを吸い込んだオレは自分の顔が火照っているのを知る。これは夢の扉を開くカギ。今日こそは夢の奥の奥まで、もう醒めることなんてできないくらい奥まで行ってやるんだ。
くい、と喉が鳴る。夢の欠片がどんどんオレの中に流れ込んでいく。
器用だな、フリオは。あんないっぱい武器使えるのに、薬まで作れちゃうなんてな。なんかおふくろみたいなところあったけど、嫌いじゃなかったよ。セシルもクラウドも、なんだかんだ優しかったし、強いし、すごいと思ってた。
でも、みんなやっぱり、どこか遠かった。
いや、遠かったのは、オレのほうかもな。




あ。濃くなる夜。
幾億の夜を重ねただろう。眠らない都市、ザナルカンド。満々と水を湛えたスタジアム、歓声をあげる観客、明滅を繰り返すネオンサイン、そうたしかに「夢」と呼ぶに相応しすぎて目眩がするほどの、それ。


電光掲示板の真ん中にアップで映るオヤジ。と、オレ。観客の歓声はもはや轟音と言ってもいいくらいの迫力に変わり、スタジアムは天地をひっくり返したかのごとくに揺れ動く。
オヤジがニヤリと挑発する。オレはそれに応えるようにボールをくるっと回して、オヤジの静かに燃えるようなカーマインの瞳を睨み付ける。
Blitz Offの合図はどこか間抜けで心地好い。おぼろげに光る幻光虫。飛び散る水飛沫。パスを受けてまさにシュートしようとしたオレはタックルを受けてよろめく。立ちはだかるはエイブスマークの刺青の入った浅黒い胸板、くるりと翻ったその背中を追う。
観客たちのほとばしる嬌声に酔わされたオレとオヤジはただひたすらに、水の中を駆ける。


脳は未だ覚醒しない。いや、させない。何故ってオレがずっとここにいたいから。夢の中じゃないと何も叶わない。





あ。薄れる夜。
眠らない都市の影が遠ざかってゆく。
いやだ、また、戦う、のか。なんのために? オレ、みんなみたいにお利口に「世界を救うため」の戦いなんて、できない。オレはただ、オヤジと未来までずっと行けたらって願うだけだ。自己中もいいとこだけど。
オヤジはあんなふうに消えるべきじゃなかった。あんな弱々しく笑って、オレの頭を優しくぽんぽんって叩くような、そんなの、なんか、違うんだよ。
オレはオヤジをずっと最高に憎みながら最高に尊敬しつづけたかった。オヤジの犯した罪もオレの情けない心も、赦して、赦されたかった。認められて、認めたかったんだ。
なのにオレにだけ何もさせないで自分だけキレーに赦して認めて消えちまうなんて、狡いってんだよ。オレだってあんたを、こんなにも。
赦させろよ、認めさせろよ、
そしてそれを、伝えさせてくれよ。





夢は消えて、朝が来た。
朦朧とした意識の中、オレは瓶のコルクをキュッポキュッポ鳴らしながら、またフリオニールのテントに向かう。









2012/04/30 19:28



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