(異説、13回目の戦い)












ねえ。少女は言った。わたし、怖い。怖いの。儚げに細められる目とその端にちいさく輝く滴を不謹慎だけど綺麗だと思った。なにがこわい? おれはいつものようにすこし茶化して訊ねる。カオスって馬鹿でっかいしめちゃくちゃ強そうだもんな〜。ちがう、そうじゃないの。少女は首を振る。癖のある金の髪がおれの首元にかすかに触れてくすぐったい。
みんなとのおわかれがこわいの。さびしい、かなしい、より、こわい。どうしてこんなきもちになるんだろう。片言を紡ぐ少女の声は震えていた。
わたし、ほんとうに狡いし、コスモスの戦士として失格だと思うの。だって、だってね。いつになく饒舌な少女のことばはまだまだ溢れ出る泉のようにとどまるところを知らないのだ。おれはそっと頷く。うん、それで。
カオスを倒さなきゃこの輪廻は終わらない。みんなが幸せに暮らせる世界も、みんなと見た夢も、何も叶わない。そんなの、わかってるのに。カオスを倒したくないって思ってしまうの。今のままのときがずっと続けばいいとも、思うの。おかしいよね、ごめんなさい。うん、うん。それはいいとして。ティナ、今日はほんとによく喋るなー。
いいか、ティナ。おれたちはおわかれなんてしない。すこし屈んで目線の高さを合わせる。いちどこうして出逢った人間とはずっとずっとおわかれなんてできないんだよ。少女は首を傾げる。どういうこと? うん、もっとわかりやすく言えば。たしかにおれの帰る世界とティナの帰る世界はちがう。でもそれは単にちがう次元にいるってだけだろ? すごく離れたところにいるだけなんだよ。今みたいにこうやって話したりするのは、そりゃ難しいかな。でも、ティナはもうおれのことを忘れないだろ? おれもティナのことを忘れない。こうやって話したり戦ったりして手に入れた記憶の種が蒔かれて、こころの奥の奥にしっかり根をはって、葉っぱが茂ったり花を咲かせたりしてずっとおれたちの中で生きてくんだ。だから、ほんとうの意味でのおわかれなんて存在しない。しようがない。
とおれは思うね。
とはいえ浄化されちゃったら意味ないからな。記憶の種はぜんぶ吹き飛ばされちまう。そうさせないためにこの輪廻を断ち切るんだよ。ずっとずっと永久におわかれしなくてすむように。
まばたきもせずおれの話を聴いていた少女はそこでやっとひとつまばたきをして、目の端に存分にたまっていた滴を幾筋も頬につたわせて、すてきだね、と消え入りそうな声で言ったあと、はじめて少し笑った。うん、いい顔だ。




そしておれたちはこの世界の最期を見届ける。ばいばい、さよなら。なんだかんだで悪くなかったよ。体当たりして感じたいろんなこと、たのしさもうれしさも怖さも迷いも決意も、そしてほんのすこしの寂しさも、ぜんぶ受け容れよう。きっとそれは、大きかったり小さかったりやんちゃだったりおとなしかったりまっすぐだったり不器用だったりやさしかったり頑固だったりする、9本の記憶の木たちの肥やしになるのだから。












------------

皆がそれぞれの世界に異説世界の記憶を持って帰れたら素敵だなと思います。あんなことこんなことあったよって、もとの世界の大切なひとたちにお土産話してほしい。
実際は不可能なのかもしれないけど…。



2011/06/16 20:08



<<


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -