更新履歴2012 | ナノ






※残酷的な表現あります。注意※



「お前は私の息子ではない」

目の前に転がる真っ黒に焦げた物体。辺りはきな臭いにおいが漂う。
その焦げた物体が、俺の母だなんて思いたくなかった。到底、思えなかった。

「朱木、お前は絶対にお父様と私の大切な大切な息子だからね」

そう言ってよく母は俺の小さな体を抱きしめてくれた。厳しい人だったけど、俺を甘やかしてくれるような人ではなかったけど、とてもとても大好きだった。
いつもいい匂いがして、顔をクシャリと歪めて笑い俺を抱きしめるのだ。子供ながらに俺はそんな母が愛しくて愛しくて。

唯一屋敷で嫌な顔一つせず俺の世話を焼いてくれた女中が俺の視界をその小さな肉刺だらけの手で遮っていたから、俺は母の焼け焦げる過程を見ずに済んだ。だから到底、目の前で焼け焦げた原形を留めていない物体を母とは思えなかったのだ。

涙は出なかった。

俺を抱きしめ大丈夫、大丈夫と何度も言葉を繰り返す女中も、気付いたら黒焦げになって倒れていた。

そして、冒頭の一言。
5歳の頭で、ころされる、と一瞬で理解した。

「…しってます」

幼かった俺がその言葉の意味を本当に理解していたのかは分からない。俺を守ってくれる存在はもうない、あのクシャリと笑う母は見れないのだと、理解するまで大変な時間がかかった。

父や祖父、兄弟が俺を嫌ってたと同様に、俺も彼らの事が嫌いだった。
負けたくなくて、悔しくて、子供ながらに必死に吐き出した言葉がそれだった。今考えればみすぼらしい嘘だ。

「ほう。なら、この家から出て行け。お前は柳家の人間じゃない」

「…いやです」

「なぜだ?お前は柳家の血を引かない凡人だ。ここにいること自体おかしいだろう」

「今でていったら、おれはしんじゃう。しにたくない。なんでもゆーこと聞くからここにいさせてください」

子供のくせに子供らしくないと自分でも思う。
俺は自分一人では何もできないと分かっていた。生きることに何の目的もなかったが「死」というものは、おねしょがバレたとき俺を叱る母よりもおそろしいことを理解していた。死んだら何も残らない。母がよく見ていたサスペンスドラマにでてきた刑事が自殺しようとする容疑者に向けて言った言葉だった。

「いいか、クソガキ。お前が独り立ちするまではこの屋敷にいることを許そう。だがな、人間として暮らせると思うな。ここは凡人がいていい場所ではない。高貴な能力者の城なんだ。お前は畜生にも劣る。それを踏まえて己の身ぶりを考えろ。少しでも出過ぎた真似をしたらそこの薄汚い女や女中同様お前を跡形もなく消し去ってやる」

毎日毎日死にたくなるような、辛く酷い10年間の始まりだった。





主人公:柳 朱木(やなぎ しゅき)
過去編みたいな。訳ありってたのしーね



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