その日に




何年前の話だったか。
アラバスタに腰を据える前、航海をしている時…―


『あ、』

いつもの如く朝食後に紅茶を嗜んでいると、目の前に座る女が唐突に声をあげた。
なんだ、と視線で問えば、ちょっとね、と意味あり気に紅茶へ視線を落とした。
人の情に鋭いこの女は会話をする時に必ず人の眼を見て話す。
あえて視線を外す時は何かしら思案していることが多い。
しばらく黙ってみたが、続ける素振りはない。

『なんだ。言え。』
『なんでもないの。気にしないで?』
『…………』
『そんなに睨まないでよ。』

先を促すように睨めば、困ったような顔をして、割った。

『今日、誕生日なの。』



―…あの時は出逢ったばかりで海のど真ん中だったこともあり、
又、祝うような歳でもないだろうと、嫌みを交えて口先だけの言葉で済ましたのだが…


「ごめんなさい。待った?」

ふいっと振り向けば、ドレスアップした女がそこに立っている。
念入りに見るまでもない。ドレスは以前、俺が買い与えたものだ。

「ふん。思ったよりは早かったな。」
「よかった。」

行くぞ、と踵を返せば、素早く俺の左腕をとる。
ちらりと横目で見やると嬉しそうな表情がこちらを見上げていた。

「まさかレストランを予約してくれるなんて思わなかった。」
「記憶力は衰えちゃいねえよ。」
「流石はサー・クロコダイル。」

何を食べようかしら、と擦り寄ってくる。
らしくない行動とテンションの高さに、俺の口角も上がる。

「餓鬼か。」
「私もこの歳で喜ぶなんて思わなかったわ。」


「でも、クロコダイルが用意してくれたんだもの。嬉しいに決まってるでしょ?」

その言葉に足を止めた。


「…レプティール。」
「くすっ…夜まで待てない?」
「ふん。お前もだろうが。」
「ん、ちょっとだけ。」

甘えてくる女を抱いて、深いキスを落とす。
夕食にありつくのはもう少し後になりそうだ。



(彼女の生まれた日に)



あとがき
自分へのhappy birthdayとして書きました。
社長の偽モノ臭が凄いのはいつものことですが、それにしたって甘くし過ぎた感が否めません。
ここに至るまでに二人にも色々あったんですよ、うん。
まだ書けてないけど。(2014.3.10/∞)

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