砂鰐と魔女



「お前が噂の魔女か。」
「貴方が噂の砂鰐さん?」

出会いは、偉大なる航路のど真ん中だった。
賞金1億万ベリーの魔女と、七武海の砂鰐。
互いに手配書や新聞等で存在は知っていた。

「口の聞き方には気をつけろ。」
「あら、ごめんなさい。気に障ったのなら謝るわ。」
「ふん。度胸のある女は嫌いじゃねえが…

゙砂嵐(サーブルス)゙!」

海で出会ったからには是非もない。
己の進路に立つ魔女に、クロコダイルは容赦なく竜巻を放った。

「私に自然系の技は効かないわよ?」

だが、魔女は変わらずそこに立っていた。
右手をかざして竜巻を押し止め、あろうことか消し去って見せた。

「ちっ、風の能力か。」
「いいえ。私は能力者じゃない。」
「何?」

魔女レプティールは、クロコダイルから目を逸らさず、海の水を自在に操って鰐の形を宙に造り上げた。
形は次々と変化を遂げ、二人の船の間で舞い踊る。

「全ての万物は手を貸してくれる。それが魔女よ。」
「…風も水も火も草も、全てを操れるってか。」

レプティールはにこりと微笑むことで答え、水を海に戻した。
魔女が魔女たる由縁を目の当たりにしたクロコダイルは、再度手のひらに渦を作った。

「だから自然系は…っ!」

瞬間、身体に衝撃を受けたと同時に、レプティールは身動きが取れなくなった。
風で相殺したのだが、砂嵐が飛散した時には、クロコダイルの鈎爪が彼女の喉元を捕らえていた。

「悪魔の実の能力は、能力者の能力に左右される。嘗めてんじゃねえぞ。」

魔女を萎縮させるべく、睨まれた目が凄みを増す。
しばしの静寂がその場に流れたが、魔女は怯まず鰐の眼光を受け止める。
そして彼女から漏れたのは、またもや笑みだった。

「くすくすっ…」
「…何が可笑しい?」
「貴方って、面白い人ね。」
「あァ?」

クロコダイルは眉を寄せた。
過去自ら脅しをかけた人間は、女に限らず、逃げるか命乞いをしてきた。
だが、この女は怯えもせずに面白いと笑っている。
眉を寄せたことにも、どうかしたのか?、といった表情で見上げてくる。

「…この俺に口答えして怯まねえ女は初めてだ。」
「私の口答えに閉口しない男は初めてよ。」
「クッ…ハハハハッ!」

レプティールの堂々たる受け答えに、今度はクロコダイルが笑う番だった。
魔女の力もさることながら、一人の女としても興味が沸いた。

「シャルム・レプティール、だったか。」
「え?…ええ。」
「お前、俺の女になれ。」
「は?」

鈎爪で顎を上に向かせながら、クロコダイルはそう言い放った。
流石のレプティールも目をぱちくりさせて真意を問う。

「本気で?」
「冗談は言わねえ主義だ。」
「それが女を落とす時の常套手段なの?」
「女なんざ落とさなくとも集まる。」
「あら、モテるのね。」
「ふん。そんなことはどうでもいい。」

俺の命令に答えろとばかりにクロコダイルは先を促す。
しばし考える素振りを見せたレプティールだったが、直ぐに肩を竦めた。

「嫌と言っても無駄でしょう?」
「クハハッ、賢い女は嫌いじゃねえ。」
「光栄だこと。」

その答えに満足したのか、鈎爪が首元から外される。
とかくいうレプティールも、目の前で不敵に笑う男に何故か惹かれていた。

「来い、レプティール。」
「宜しくね、クロコダイル。」

鈎爪の誘導に従って、魔女の一人旅は終わりを告げる。
魔女の行方が判らなくなると同時、砂鰐が女を連れていると噂になるのは、しばらく経ってからのことだった。






(それは偶然にして必然)


〜あとがき〜
社長のは単なる気まぐれです。
初めて出会った人間に興味が沸いただけで、飽きたら消す気満々です。
(2014.2.13/∞)

2016.2.15 一部修正
社長が20代前半で既に七武海だった事を反映しました。(遅)
ちなみに、出逢いの年齢は魔女25、社長35くらいのイメージです。
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