砂鰐の例外



「機嫌が悪いな。」

その日、いつもの゙仕事゙から執務室に戻ってくるなり、クロコダイルは眉を上げた。
執務室の長椅子に、レプティールが如何にも不機嫌です、といった覇気を漂わせて座っていたからだ。
この女との付き合いもそこそこになるが、覇気に影響するほど不機嫌になるところはあまり見たことがない。
思わず口をついて出た疑問に、レプティールはちらりとクロコダイルに視線をくれると、はあ…と溜め息をついた。

「久しぶりにあなた以外の男に触られてね。」
ピクッ
「…何だと?」
「客よ。カウンターで飲んでたら、絡まれて。」

レプティールはカジノの従業員として働いている訳ではないが、クロコダイルの秘書という名目で出入りを許されている。
裏家業の忙しいクロコダイルに代わり、不穏な客はいないか等を監視する役目を兼ねている。
どうやらその際にあろうことか、客がレプティールに誘いをかけてきたらしい。
大抵の関係者や客は、レプティールがオーナーの女らしいとの噂を知っているが故、手を出す者はいないのだが。

「ちっ…殺したんだろうな?」
「いいえ。抱かれてやった。」
ブチッ

あっけらかんとそう言ってのけるレプティールに、クロコダイルは一瞬で距離をつめた。
鉤爪を女の喉元に押し付けて、ぐっと力を込める。
レプティールは気管を押し潰されたせいか、少々苦しそうな表情を浮かべている。

「抱かれたっていうのは、流石に冗談よ。」
「あァ?」
「ただ、肩と腰に手を廻されて、抱き寄せられたのは事実だけど。」
「………」
「あんまり本気だから、サー・クロコダイルの女を抱く勇気があるならどうぞって言ったら、逃げていった。」

半分は冗談だと両手をあげたが、クロコダイルは真意を探るために視線を反らそうとしない。

「そんなに怒らないでよ。」
「何処のどいつだ?」
「知らないわ。大した形でもなかったし。」
「ちっ…」
「あら、妬いてるの?」
「お前に触れていいのは、この俺だけだ。」
「所有物ってことね。」

納得、と肩を竦める女の腰に右手を添えて、クロコダイルはレプティールをその場に押し倒した。
これまで執務室でそういう行動を取ったことはない。
レプティールは驚きをもって、クロコダイルを見上げた。

「ちょっ…」
「拒否権はない。」
「そうじゃなくて。」
「なんだ。」
「せめてシャワーを浴びさせて。」
「気にしない。」
「気にしてよ。私は嫌。」
「……」
「もしかして…疑ってるの?」
「…そうなのか。」
「待って。」
「レプティール…」
「待ってってば!」

心外、とばかりにレプティールは声を張った。
まさか疑われるとは思っていなかった。
゙所有物゙である自覚はあるし、自覚があるからこそ、らしい言動をしてきたつもりだ。

「何もなかったの。本当よ?」
「……クッ」
「え?」
「クハハハッ!」

本気にしないで欲しいと訴えかけると、途端クロコダイルは笑い始めた。

「本気にしたか。」
「!…演技だったの?」
「お前がそう簡単に男に抱かれる女かよ。」

これまでの付き合いで、レプティールがそんな女でないことはクロコダイルがよく知っている。
クロコダイルは冗談を重ねただけだと笑ったが、レプティールは目を細めた。

「…私、結構簡単にあなたに抱かれたわよ?」
「あァ?」
「それでも信じる?」

真剣な眼差しに、クロコダイルも目を細める。

「そいつは俺を試してんのか?」
「…いいえ。」
「なら、初めから俺に惚れたか?」
「…ええ、そうね。」
「…上等じゃねえか。」

レプティールが小さく微笑む。
それこそ冗談半分で言った言葉への返事に、クロコダイルは笑って女の唇を奪った。






「すぅ…」

端で眠るレプティールを見つめながら、出会った時のことを思い返す。
俺の女になるかと聞いた時、それも面白いとレプティールは答えた。
あの時は互いに噂で知っていたとはいえ、初対面だったのだが…ー

『っ…好き、クロコ…ずっと…!』

先程の情事中に、レプティールは何度もそう言った。
その言葉に満足している己がいることは紛れもない事実だ。

「ふん…絆されたもんだぜ。」

レプティールに対する己の情について、クロコダイルは何も考えないことにしている。
この女を愛し抜ける限りは愛し抜く…ー誰にも、たとえ本人にも明かすつもりのない砂鰐の心は。
たった一人の女に落とした優しすぎるほどのキスだけが知っている。





〜あとがき〜
砂鰐の偽もん臭が半端ない…。

文章能力の無さに愕然としました。
大人な雰囲気を目指して失敗したわ…。
(2014.2.22/∞)


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