砂鰐の女



カリカリカリッ…
ペラッ…

砂漠の英雄ことサー・クロコダイルの執務室において、それは珍しい光景ではなかった。
他でもない主のクロコダイルは革張りの大きな椅子に座り書類にペンを走らせている。
その正面では女が一人、来客用の長椅子で書籍を読んでいた。
彼女ーレプティールは、歴としたクロコダイルの女、俗にいう恋人である。

だが、この二人。端から見ていると恋人同士にはとても思えないから不思議だった。
会話も無く、ビジネスパートナー以上に顔を合わせず、同じ空間にただ存在しているだけ。
今日が偶々そうなのではなく、常に過度な干渉を嫌って関わろうとしないことが当たり前だ。
だからといって相手に興味や関心がない訳では決してなく、ただお互いに適当な距離を保っだ結果゙らしい。

ペラッ…
カリッ…カリカリッ…

よって、クロコダイルが仕事をしている時は、こうして紙とペンの音しかしないのが日常になっている。



「……止めだ。」

珍しく先に口を開いたのはクロコダイルだった。
紅茶に手を伸ばしていたレプティールは、一旦体勢を戻して彼を見た。

「どうしたの?」
「飽きた。」
「まあ…くすくすっ」

率直な返答に益々珍しいと笑ったのはレプティール。
とある作戦のためと名を打ちつつ、実は根が真面目なクロコダイルの発言とは思えない。

「どうしたのよ。あなたらしくないじゃない?」
「くだらねえ書類ばかりで脳が萎縮しそうだ。」
「あらあら、大変。大事な頭が駄目になっちゃ元も子もないわ。」
「ちっ…使えねえ。」

悪態をつきながらーちなみに、カジノの職員に対してであるがー、クロコダイルは砂になった。
レプティールがくすくすと笑っている隙に、彼女の隣に腰掛けて新しい葉巻に火を付ける。

「何を読んでる。」
「『海の花』っていう小説よ。恋愛もの。」
「あァ?随分と軟弱なもんを読んでんじゃねえか。」
「海に関する小説だと思ってたのよ。勿体無いから読んでるだけ。」
「そんなもん読んで面白いのか。」
「まあまあね。でも、殆ど共感できない。
ふん。安っぽい妄想なんざ現実味の欠片もねえからな。」
「現実味、ね。」
「なんだ、その含みのある言い方は。」
「私達も現実味がないと思わない?」
「…どういう意味だ。」
「きっと有り得ないと言われるわよ、端から見たら。」
(※ご推察の通りです。)

くだらないと鼻を鳴らしたのはクロコダイル。

「なら聞くが、お前は不満があるのか。」
「不満?あなたに?」
「俺以外にいるのか。」
「まさか。そうねえ…不満…?」
「おい。考えねえと出ないようなことか。」
「あ、あった。」
「あるのかよ。」
「真面目なのは結構だけど、ちょっと働きすぎ。」
「あァ?お前、それの何処が不満だ。」
「余計な心配しなきゃいけないし、あなたと過ごす時間が減るじゃない。」
「クハハハッ、殊勝なことを言いやがる。そんな女だったか?」
「あら、私だってそれくらいの気持ちはあるわ。」
「そいつは失礼した。」

「で、そいつが現実味のない理由か?」
「そうね。半分くらいは。」
「…付き合ってられねえな。」
「ほら、そういうことをさらっと言うところが、よ。」
「あァ?」
「普通なら、相手が怒る台詞じゃない?」
「…普通じゃねえから現実味がないってか。」
「現に私達はこんな感じだけど、世間一般には馴染まないでしょうねってこと。」
「当たり前だ。俺達は海賊だぞ。」
「あら、海賊だって恋愛はするでしょ?それから、私は海賊じゃありません。」
「海賊が恋愛だ?はっ、聞いたこともねえな。」
「じゃ、あなたは何なのよ。」
「そういう意味では現実味はねえな。確かに。」
「何それ。」
「クハハハッ」

呆れ半分、苦笑半分な曖昧な表情をしながら、レプティールは読書に戻ろうとした。
が、クロコダイルはそれを許さず、強引に彼女の顔を自分に向けさせると、深く唇を奪った。

「んふっ…」

「ん…何?いきなり…」
「現実になったか。」

「くすっ…やっぱり海賊に恋愛なんて似合わないわね。」
「ふん。我が儘なお嬢さんだ。」
「なんだっていいの。…私はクロコダイルがいてくれれば。」
「…そういうことだ。レプティール。」

今の関係が至極自分自身に似合わないことを、互いに承知していて。
だからこそ相手が唯一無二であり、適度な距離を保てている。
自分がそう感じている以上、現実味がないはずがない。
前言撤回するわ、とレプティールは再度降ってきたキスを、やはり微笑みながら受け止めたのだった。




〜あとがき〜
謝っておきます。
こんなの晒してスミマセン!
自分が書いたモノを上げるって、思いの外、恥ずかしい…。
(後々、加筆修正するつもりです)
(2014.1.27/∞)


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