覚悟




レインベースの街外れで、如何にもな賊に囲まれた。
こんな下品な連中なんて、会話ですら相手にしたくない。
もう何度目かの無視を決め込んですり抜けようとしたけれど、今回は捕まった。

「無視すんなって。いいだろ?ちょっとくらい。」
「酷えことはしねえからよ。な?」
「…触らないで。」

そう言ってもしつこく、肩を抱いてこようとする男達に我慢できず、魔女の力を使ってしまった。

「な、なんだ?!」
「何しやがった?!」
「…風に手伝ってもらっただけよ。」

ふいな風に阻まれて、慌てた男達が銃や剣を構える。
これくらいで動揺するような人間の手になどかかりたくはない。
どうせ死ぬなら、彼の手にかかって死にたい。

「な、なんか、やべえぞ!コイツ!」
「気味が悪いぜ!?」

気味が悪いなんて、何年ぶりに言われただろう。
そういえば、彼の口からは一度もその言葉は出なかった。
彼も能力者だからだろうか。

「ひぃいっ!」
「あ、あんたは…!」

去ったはずの男達が焦った声を上げて、こちらに後ずさりしてきた。
その先の光景に、私の心臓が有無を云わさず大きく跳ねる。

「てめえら…そいつに何をした?」

そこには、砂漠の英雄が立っていた。



レインディナーズの従業員達にレプティールの所在を聞いたが、当然ながら情報はほぼ皆無だった。
唯一、街中に歩いて行った女がもしかしたらそうかもしれないと、出入り口にいるホストの情報があるだけだった。
街中にいるのならばまだいい。レプティールの能力は空も海も大地も味方になる。
既にこの国から姿を消している可能性も大いにあった。
そうなっては如何に俺でも、砂漠から隠された1コインを見つけ出すより難しい。

覇気を探ってみたが、レプティールのそれは全く感じられない。
覇気の形跡もなく、やはりまだ街中にいるのかもしれない。
とにかく街を一周するか、と足を砂に変えて飛び立った。

「!!」

瞬間、唐突にレプティールの覇気を感じた。魔女の力を使ったのだろう。
俺がレプティールの覇気を捉え損なうことも間違えるはずもない。
レプティールが俺の覇気には気付いてしまうと言ったように。
どの風よりも速く、俺はレプティールの元へと飛んだ。

飛んだ先、レプティールを目に捉えて地に足をつける。
視線の先に下品な男どもを前にする女がいた。
男どもを蹴散らすために力を使ったらしい。
それを見てびびったのか、男どもが踵を返して此方に走ってくる。
そして俺に気付いた。

「ひぃいっ!」
「あ、あんたは…!」

「てめえら…そいつに何をした?」

海賊に限らずコイツらのような賊は何人も見てきた。
何が目的でレプティールに近づいたかなど、聞かなくとも判る。
だが、今は最悪なまでに機嫌が悪い。

「聞こえなかったのか?その女に何をしたか、聞いてるんだ。」
「い、いや…!」
「ちよ、ちょっと声を…!」
「かかか、掛けただけで…!」
「ふん…度胸だけは認めてやろう…」

「干からびたい奴は前に出ろ!

 そいつは俺の女だ!!」


「クロコダイル…!!」


レプティールが、俺の目を見て、ゆっくりと首を横に振った。

「私…私は、大丈夫だから…」

吹き荒ぶ風の中、レプティールの艶やかな声が届き、ゆっくりと落ちていった。

「ちっ…失せろ。…゙砂嵐(サーブルス)゙!!」

あらん限りの力を抑えて、馬鹿どもを吹き飛ばした。


ヒュオオオッ

「…………」
「………」

先に視線を外したのは、レプティール。
ゆっくり視線を下げると、まるで覚悟を決めたかのように静かに目を閉じた。
そこでやっと、レプティールは俺の制裁を待っているのだと気付いた。

『もし私があなたを裏切るようなことがあったら、その右手で殺して。』

いつだったか、レプティールが言った言葉だ。
凛としてそこに存在する、俺がこの世で唯一そばにいることを許した女。

「レプティール…」
ピクッ

その覚悟は、その存在は…此処にある。

ザアアアアッ

吹き荒ぶ砂の風から守るように、右手で抱き寄せた。

「クロコダイル…?」

小さく、彼女が呟く。
その温もりに、抱く力を強める。

「レプティール…」
「っ!」

「っ…許して、くれるの…?」
「…元々そこまで怒っちゃいねえ。お前が勘違いしただけだ。」

そう言うと、やっとレプティールの方から腕を回してきた。

「ごめんなさい…来てくれて、ありがとう…」

ぎゅっと俺に縋る姿に、頭を撫でてやった。

「俺の女はお前だけだ。」

意識せずに口をついて出た言葉。
レプティールは弾かれたように顔を上げた。

「おい。なんて顔してやがる。」
「だ、だって…」
「あァ?」
「あ、あなたの口から、そんな言葉が出てくるなんて…思わなくて…」
「…干からびるか?」
「ああ、待って!怒らないで!」

ふわりと身体を浮かせて、首に抱きついてきた。

「最高のプロポーズよ…クロコダイル。」
「…調子に乗るな。」
「私、今すぐ死んでもいい。」
「…おい。」
「訂正…昇天しそう。」

「…誘ってんのか?」
「ん…ショーから、やり直しても?」

色を持った眼がかち合った次には。
俺とレプティールはその場から姿を消していた。


(時には言葉で)


あとがき
プロポーズは言葉のアヤなだけですので、悪しからず。
ヒロインにとって社長を不快にさせること、傷つけることは即ち裏切りなのです。
゙その時は砂にしでが彼女の覚悟です。
(2014.3.15/∞)


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