劉輝のもちつき大会


紫劉輝はめでたい正月であるにも関わらず、執務室の机案上で筆を持ったまま頬を膨らませぶすくれていた。

さっきから劉輝の筆は全く動いてはいない。しかし動かせば「へのへのもへじ。」とでも書きそうだった。

その突つけば破裂しそうな頬を横に控えている李絳攸は、本当に突ついてくれようかと冷たい目で見下ろしている。

「今度は何が不満なんですか−−−昏君」

よくぞ聞いてくれましたと劉輝は顔を上げた。

「絳攸は正月から働いてよく平気でいられるな」

「平気だ」

「余はちっとも平気ではないっ!!正月くらい秀麗に逢いたいのだぁ!!」

「うる、さーーい!!正月はいつもより忙しいに決まってるだろ!ホラさっさと年賀の挨拶待ってる連中の前に出るぞ」

絳攸は劉輝の首ねっこ掴んで立たせようとするが、劉輝は机にへばりつく。

「嫌だッ年始の朝賀なんて面倒だ!大体、毎日毎日顔を合わせてる連中ばかりで意味がないではないかっ!毎年遠くから態々来てくれる州牧達にも申し訳ないからこれからは年賀状にしようと思う」

「年賀状?」

絳攸は聞いた事ない言葉に眉を潜める。

「文で『今年もよろしく』と送るのだ」

「・・・あ、」

阿呆かーーーーーー!!!

執務室に絳攸の怒声が響き渡ると、これはいつまでたっても室に入る良いタイミングなど来ないと悟った藍楸瑛は仕方なしに扉を開け二人の間に割って入った。

「やぁお二人さんおはよう、今年もよろしく」

「あっ楸瑛!丁度いい所に来た」

劉輝はパッと顔を輝かせるが、楸瑛にはどの辺が丁度良かったのかサッパリ分からなかった。

「楸瑛からも絳攸に言ってやってくれ!正月くらい休ませよと!」

やれやれと肩を上げる楸瑛は懐から一枚の料紙を取り出して劉輝の前に掲げた。

「そんな主上に朗報です。秀麗殿から正月の餅を振る舞いたいとの文が来ましたよ」

「なっ!!」

劉輝はガターンと椅子を倒して立ち上がる。

「何で余の所にではなく楸瑛の所にお誘いの文が来るのだ!!みみみ、見せよ」

「駄目です」

飛び掛る劉輝をヒラリと交して楸瑛はさっさと料紙をしまう。劉輝は何でだ、と涙目だ。

「きっと貴方に送ったら仕事すっぽかして即行で来るだろうから私に届いたんですよ。今日は年賀の仕事をしっかりこなして明日来てくださいとの事です」

「分かった、余は仕事するぞっ!!待っていてくれ秀麗ーー!」

拳を握り締めて宣言する劉輝を見て、絳攸は秀麗の策士ぶりに感謝せずにはいられない。もう、ありがたくて泣けてきた。




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