葵皇毅 運命歪む


年号武徳

名門葵家を陥れる偽りの誣告があった


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落日の日
大鴉が羽ばたくその金色の眼下


謀られた葵家の末路にあがらえない無力な子供が一人。

一族が次々と自壊してゆく、悪夢としか思えない邸の有り様を涙で真っ紅に腫れた眸で傍観していた。

自刃しろと与えられた刀を地面に転がしている子供を見つけ父親が鬼の形相で向かってくる。

本能で殺意を感じた子供は背を向けて走り出した。

龍笛と乗馬を教えてくれた父。共に馬に乗り狩りに出かけ獲物を追いかけた思い出。
将来は尊敬する父の背を追いかけ官吏になろうと思っていた。

その父親に背を向けて逃げている子供の純粋な眸から次々と涙が溢れ、足が縺れたところで心臓が大きく跳ねた。

父親が振り下ろした刀が子供の背を紅く染め昊に舞う血飛沫の中、狂った悲鳴があがった。





騒ぎに駆け付けた複数の使者に混じっていた旺季は瀕死の子供を拾い上げようと手を伸ばす。

しかしその腕をかすめるように子供の身体が宙に浮いた。

旺季が上げる双眸の先に、武徳の覇王が聳えていた。

「この餓鬼は俺が連れていく」


葵皇毅は旺季にではなく、紫セン華に拾われた−−−



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彩雲国国王・紫劉輝(十九歳)に関する調書

(葵皇毅筆)


家族事情−−−母親である第六妾妃は幼い頃他界。

父親(=先王。命の恩人だが鬼畜)は八年前に病につき、一年前に崩御。

政治姿勢−−−やる気なし。興味なし。朝議にも出ず臣下(というか俺)に任せっぱなし。

私生活−−−男色家との噂が立つ。毎晩別の侍官と夜を過ごす有り様。(俺には声を掛けないが、掛けたら半殺しの刑に処す)
午はどこかでフラフラしている。
今現在一人の妃嬪もなし。


なんだこれは



「ハァ…………」

彩雲国宰相、葵皇毅は宰相室の机案に向かい項垂れた。

先王の命により劉輝の目付け役として傍に上がってから、手塩にかけてお育てした若様がどうしてこんな……どこで間違えてこんな、昏君!になってしまったのだろうか。
我ながらしくじったとしか思えない。




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