御史台の忘年会


御史台の囲い回廊から見える狭い昊の色は、いつも鈍色だった−−−



自分は親類一族の期待を一身に背負い、彩雲国王朝へと出仕するしがない官吏です。

所属は一応、独立監査機関である御史台なのですが、

罪の訴追、訴追、また訴追の毎日……

しかも偉い上官は何やら、「揉み消し」みたいな事もやっているような気がしてならなくて、偉くなってもいい事なさそうだとしか思えないわけで。

つまり正直俺、あんまり御史台向いてないわけで……

その向いて無さ加減に、上官達も俺の事など空気扱い、逆にちんまりとクビにならないまま御史というよりお茶汲み下官として現在に至ります。


−−−そんな今にも消え入りそうな官吏を抱える御史台に年の瀬、妙な回覧が回ってきた





「忘年会の御知らせ……?」

回覧の内容をザッと目で流してみるが、ポツリと気の無い感想しか俺の口からは出てこない。

御史台所属の内々で年末に労いの席を設けるとの報せのようだが、いまいちピンと来ない。これは一体どういう趣旨だ。

確かに御史台は大抵年間行事とは無縁だし、年末決済も調整の嵐もないけど………忘年会なんて初めてだ。

俺が回覧持ってポカンとしていると、同室の上司が回覧の一点をゴンゴンと指で叩いた。

「ココを百回読んで葵長官のお考えを熟考してみろ」

「んー……?」

上司に的射られた行をもう一度読んでみる。


『特別来賓 前御史台長官 旺季殿』


旺季殿が………来るから、………ナンダ?

全く分からない様子の俺を見て上司達は「駄目だコイツ」と諦念したようだった。

旺季様が要なのだろうか?

呑気な俺はそれ以上何も考えないまま、出欠欄に印をいれ回覧を隣室へと回した。

そのまま煩雑な仕事にのまれていたら、いつの間にか忘年会当日となっていた。
俺は空風も骨身に染みる寒空の下、徒で指定の酒楼に向かう。

ビンボーなんで軒なんぞ出せません。

地図を片手に漸く着いた酒楼には既に続々と御史達が集まってきている模様で、門には軒や馬が押し固められるように連なっていた。

若干気後れする。

それにしても、意外にみんな律儀に来るんだな。
これも旺季様が関係しているのだろうか。

俺が頭を低くしながら座敷に入ろうとすると、戸の入り口に本日の幹事らしき二人が立ち塞がる。

「席はくじ引きだ。一個引いて、番号通りの席につけ」

「くじ引き……ですか、ハイ」

言われるまま仕方なく、伏せてある紙を一枚選んでから中に入った。

「二十五番………」

席に付けられた番号を探しながら、さまよう俺の目にあり得ない悲劇が映った。




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