タヌタヌ邸の七夕逢瀬



天帝の娘織女と牛飼い牽牛との年に一度の逢瀬

恋にかまけて責務を忘れた二人の戒めが解かれ夜昊が彩られる日



−−−−−



「絳攸、私常々不思議なんだけどね。そんな道楽旦那と会って何が嬉しいんだろうね?彦星さんは置いといて織姫さんの気持ちが全く分かんないわーー!」


「そ、そうですね百合さん……」

(そんな、自分に当て嵌めないでください……)

絶叫する百合と頭を垂れる絳攸は妖怪奇怪タヌタヌ邸でたまたま本日暦が七夕であると気がついて古の恋物語に語らっていた、否、百合がイチャモンつけていた。

「せっかく貴陽に用事が出来て寄ったのに、黎深はぷらぷらほっつき歩いて居ないし。まぁ静かでいいけど」

「いえ、そろそろお帰りかと思います」

絳攸は百合が紅邸に帰ると何処から嗅ぎ付けるのか黎深も必ず現れる事を知っていた。
居るんじゃ無くて現れる。

待っているのでは無く、現れる。


「黎深様早くお戻りにならないかな」と絳攸がソワソワ肩を揺らしていると、母屋の方角から家人達の「だ、旦那様ーー!?」という叫び声が聞こえてきた。


「ねぇ……………旦那様って誰だと思う?」

「…この邸でそう呼ばれているのはお一人かと」

気だるそうに頬杖をついている百合の耳にガサガサガサと妙ちくりんな音が聞こえてくる。
此方に向かって何かを運んでいるようだ、しかし一体何を−−−

ドカドカと床板踏み鳴らして紅黎深が室に入って来た。

その肩には巨大な竹が背負われている。

「兄上宅に差し入れた七夕用の笹が余ってしまった………なんだ百合、いたのか」

「説明口調でお帰りなさい黎深。早速だけどさ、そんな巨大なの竹だよ。笹じゃない」

百合は容赦なくビシッと竹に指さす。

「…………何!?細かいやつめ!!」


絳攸は指摘された黎深から思いきり視線を外した。

自分は居ません空気です、お気にならず。


「まぁパンダだったらガッカリしてふて寝だろうけど、秀麗ちゃんなら喜んで使ってくれるんじゃないかな?竹だけど」

「う、うるさいわ!!」


(俺は空気なんで発言しません……)




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