集う花守
自室に籠る旺季がその筆を休め、身体を労るように露台に身を預けていると、いつか耳にした別れの漢詩が聞こえて来た。
(花守か……)
静かに眸を開くと、眼前には自らを花守と称する孫陵王が月明かりを頼りに立っていた。
手には酒瓶と手折った桜の枝。
「木枝を無闇に折るなと言ってるだろう」
旺季の早速の一言に陵王は肩を竦める。
「折れてたんだって」
「嘘吐け、今度こそ禁煙令でもくれてやるか」
「ヒデェ……、一生懸命考えた献上の品なんだぞ。ついでにこれも受け取れ」
何が一生懸命だと陵王を一瞥し、続けて差し出された酒瓶にも目を向ける。
ただの酒ではない、薬酒の札が貼ってあった。
「……目聡いな」
「そうかぁ?お前の具合が悪いと、花守と息子達も心配で仕方ないんだよ」
しかし心配していると云う割には、一緒になって露台へ上がり煙管に手を掛けて「この室は禁煙だ」と旺季に小言を言われる始末。
「そういえば、お前の息子其の壱が俺の後を追っ掛けて此処へ向かってたな、そろそろ来る頃だ」
陵王がふんぞり返って室の扉に眸をくれてやると、確かに葵皇毅が大きな龜を抱えて入って来た。
「よぉ、旺季の息子其の壱」
そんな呼ばれ方をした皇毅は可愛いげの欠片もない無表情で淡々と言葉を発する。
「……誰が息子其の壱です。そんなチャチな形容止めて貰えますか」
そう言い、抱えていた龜をドスンと下ろす。
「御加減が芳しくないと窺いまして、藍州の八珍味をお持ち致しました。滋養に宜しいかと」
「それ、元々俺が勧めた双黄鴨卵だろ」
陵王が更にちゃちゃ入れると皇毅は今度こそムッとした表情になる。
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