愛しい甘味は誰のもの?


今日も朝から麗しい笑顔を携え身嗜みも完璧な武官が一人宮城の回廊を颯爽と歩いていた。

普段なら所属する羽林軍の兵舎へ向かう筈の足だが今日は何故か王の執務室へと向かっている。

「失礼致します、劉輝様」

到着した先の重厚な扉を開けると、中の執務室で眠そうにしている王に一礼した。

「あっ!あに、じゃなかった静蘭!」

王である紫劉輝は突然訪ねて来た愛しの兄上にパッと笑顔になって立ち上がった。

静蘭はにこにこしながら、座って下さいねと劉輝を窘める。

「珍しいではないか!静蘭が余を訪ねて来てくれるなんて」

朝から嬉しいのだと素直に伝えようとした劉輝は、
ん?何だアレ?と目を細める。

訪ねて来た静蘭の小脇には何か包みのようなものが不自然な状態で挟まっている。

挟まり方がもの凄く不自然だ。

「静蘭、左腕で挟んでいる包みは何なのだ?」

劉輝が包みを見ていると静蘭の機嫌は更に上昇し声にも一層と艶が増した。

「あ、見つかっちゃいました?」

明らかに業とらしい見つかり方だが、静蘭は照れたように笑みを溢す。

そしてポカンとする劉輝に持っていた包みを見せて差し上げた。
否、見せびらかした。

「お嬢様が私にと下さった餡入りの饅頭なのですが」

「えっお嬢様って、もしかして秀麗か!是非余も食べたいっ!」

秀麗と聞いた途端、勢いよく包みに向かって突進する劉輝をひょいと避けた静蘭は残念そうに首を横に振る。

「申し訳ありません。これはおそらく特別な饅頭なので、いくら劉輝様でも差し上げられません」

避けられた劉輝は拳を握って頬を膨らませた。

「何を言うのだ!余にとって秀麗の作るものはいつだって特別なのだ!」

どこまでも清らかで純情街道まっしぐらな劉輝の白い心は、態々自慢しに来た静蘭の腹黒根性に更に火をつけた。

「劉輝様、異国にはこの時期に想いを寄せる男性に女性から甘味を贈る風習がありまして、こちらはお嬢様が私にと作って下さった甘味なのですよ」

すいません、と貰えなかった劉輝へ心から笑顔だけを贈ってあげると劉輝はこの世の終わりのような顔になった。

「嘘だ……秀麗が余には饅頭をくれなかったなんて嘘だ……っていうか実はそれ余の饅頭だろう!返すのだ兄上っ!」

「誰が兄上ですか、静蘭とお呼びください」

二人が一見、和気藹々と包みを奪い合っていると再び「失礼します」と室の扉が開かれた。




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