外鬼内福の術


厳しい寒さが続く如月。

御史台の一室で今日も秀麗と蘇芳は大量の案件に埋もれていた。

「お嬢さん、室が寒いよ」

「何いってんのよタンタン。心頭滅却すれば氷もまた火の如しって言うじゃない」

「−−−え〜と、言わないしっ!!」

へくしょん!とくしゃみをする蘇芳は堪らず火桶の炭を足しに行くために立ち上がった。

しかし室の扉を開けた所で扉の目の前にいた晏樹とかち合う。

「ゲッ!晏樹サマ」

「こんにちは」

晏樹はにこにこしながらスルリと蘇芳の横を抜けて奥にいる秀麗の顔を覗き込んだ。

秀麗は蘇芳と同じく「ゲッ」と口に出しそうになったが寸で飲み込んで、にっこり作り笑いをする。

「こんにちは晏樹様、いいお天気ですね」

晏樹はチラリと外を見たが別にいい天気ではなかった。

「今日も頑張っているね、お姫さま。細やかなご褒美を持って来てあげたよ」

桃なら要りません−−−秀麗はそう言おうとしたが、晏樹は桃ではなく枡に入った豆を手にしていた。

「えっ豆ですか?」

怪訝な顔をする秀麗だが、晏樹はハイどうぞ、と豆入りの枡を渡す。

「そう、炒った豆だよ。美味しいけど食べる前に厄を祓ってからね」

秀麗は筆の手を止め、晏樹から渡された枡を眺める。

「今日は節分だよ。季節の変わり目には外鬼内福、豆を撒いて邪気を祓わないと」

「はぁ……?」

晏樹の提案の真意が分からない秀麗は困った顔をした。
皇毅から「晏樹から桃を貰ったらクビ」と言われているが、豆はどうなんだろうか。


「じゃ、早速祓いに行こう」

「えっ今ですか?」

晏樹は楽しそうに秀麗の手を引いて立ち上がらせようとする。
しかしこのクソ忙しい時に呑気に豆を撒いている場合ではないし大体、

「勿体無くて撒けませんよ!普通に食べましょう晏樹様」

「大丈夫、撒いた豆は後で鳩にあげるから」

茶目っ気を含んだ麗しい瞳を片方閉じて見せ、晏樹はそのまま秀麗の手を引いて室の外に連れ出した。




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