府庫はどこだ
秀才かつ天才(的な方向音痴)李絳攸が今日も宮城の中を孤独に徘徊していた。
環状でもない通路をもう何度も行ったり来たりしている見事な道迷いっぷりだが、本人は全く気付いてはいない。
真っ直ぐ目的地の府庫に向かって猛進しているハズなのだ。
手には腐れ縁である藍楸瑛お手製の「これで君も宮城マスター!」と銘打った案内地図が握られている。
しかしせっかくの、これで君も宮城マスターな地図も殆んど開かれる事はない。何故なら肝心の現在地が分からないからだ。
絳攸は地図をグシャと握り潰す。
「この地図が悪いーーー!!」
孤独に言い放ち地図を破ろうとするが、楸瑛の「えっ?また破っちゃったのかい?仕方ないね、また書いてあげよう」という生暖かい微笑みが脳裏をよぎって思い止まる。
その辺の適当な室に入って道を尋ねるのも一つの手だが、以前闇雲に開けた室の中で軟派官吏と後宮女官の逢い引き現場にぶちあたり女官に「きゃー!」とか言われたのがトラウマだった。
何が、きゃー!だ。何故か「すまない」と謝って扉を閉めた自分が情けなかった。
府庫に向かう楸瑛が偶々通り掛らないかと考えながら中庭を眺める絳攸の背中に哀愁が漂いだす。
もう着かないかもしれない−−−
この地図のせいで。
しかし中庭の対にある柱が目に入ると絳攸の表情は急に明るくなった。急いで柱を確認する。
「あったぞ!!」
柱の傷を指でなぞりながら絳攸は歓喜の声をあげる。この傷のついた柱は目印なのだ。この柱の廊下を直進して右に曲がればそこはもう府庫。
道を覚えるには目印を決めろと教わり、中庭の掃除をしている庭師や天井に張っている蜘蛛の巣を目印にしていた絳攸だったが、遠い目をした楸瑛に「半日で無くならない目印にしよう」と諭され二人で決めた府庫への目印の柱だった。
これでもう到着したも同然だった。絳攸は約束の時間に遅れてしまったと焦りながら直進する廊下に目を向けると、向こう側から二人の大官が道を塞いで歩いて来た。
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