情事の一刻後
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−−−今夜も玉蓮は寝台で疲労困憊
天井がゆらゆらと揺れている。これは錯覚かそれとも目眩だろうか。
(はぁ、………皇毅様と私では体力が違いすぎるわ……)
先程まで激しく愛されていた身体が未だ熱く外気に触れた汗がひんやりと肌を湿らせる。
これは熱を冷まし、きちんと汗を流してから眠りたい。
コロリ、と身体を寛げ心地好いだろう浴槽の湯気を思い浮かべてみる。
お湯場に蝋燭をほんのりと灯し、湯舟には花びらを沢山浮かべたい。
香油を混ぜるのも良いかもしれない。
(ああ、素敵………)
熱い湯に身体を沈め腕や足を揉み解せばさぞ心地好く安らげるだろう。早くお湯場へいきたい。
つと、視線を上げて横で目を閉じている夫を凝視する。
(眠っていらっしゃる……かしら)
寝息らしき呼吸に耳を傾けるが、いまいち確信が持てない。
もし皇毅が起きていれば絶対に湯あみについて来る。すると今思い浮かべた癒しの光景が泡となってしまう。
「洗ってやる」と皇毅に纏わりつかれ翻弄され、挙げ句に押し倒されてしまう。
疲れをとりに行くはずが更に疲労は蓄積、朝になっても起きられなくなるのは困る。
愛している
愛されるのも好き
だけれど朝になっても腰が立たないなんて恥ずかしい。
(………眠って……ます、よね?)
恐る恐ると人指し指で結ばれた唇に触れてみる。
「!、…………」
不快そうに眉だけしかめた皇毅は言葉なく背を向けてしまった。
これはきっと眠っている。
ハタハタと長い睫毛を上下させ、こっそりと起き上がった。
「……皇毅様……ちょっと湯あみに行って参りますね……」
消え入る小声で伝えるフリをしてゆっくり、ゆっくりと寝台を降りた。
足音を立てずにそそくさと戸口へ走ると、もう一度振り返り起きていない事を確認する。
−−−湯舟に花びら
−−−大好きな香油
ウキウキと玉蓮が室を後にすると、片側だけ薄目を開け様子を見ていた皇毅のこめかみにピシリと青筋が走る。
置いていかれたようだ。
(さて、どうするか……)
今夜の悩みは至極不愉快だった
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