追跡


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−−−明日は待ちに待った皇毅の公休日



普段は寝静まった頃に漸く床に入ってくる夫と一日一緒にいられる。

待ちきれない玉蓮は宮城の一画にある従者の待機場で葵家の家人と共に用意された椅子に座っていた。
一方の家人は気まずそうに両掌を組んで俯いている。

(何故、奥様まで此処にいる。当主様の怒髪天を衝いてしまったらどうしてくれるんだ)


室の窓からは壮大な外朝の風景が広がり折り重なる燈色の屋根瓦を玉蓮は満足そうに眺めていた。

家人は景色などどうでもいいと項垂れる。
可愛らしい玉蓮の後ろに最悪の機嫌で仁王立ちする皇毅の姿が見えるようだった。

先程まで玉蓮は邸で侍女達に混じり皇毅の為にご馳走を用意していたはずなのに、何故こんな所まで迎えに来てしまうのか。
そんな半ば呆れる家人と二人、いつとも知れぬ皇毅のお出ましを待っていた。

「毎日こうして皇毅様の帰邸をお待ち頂いてありがとうございます」

項垂れていると玉蓮が柔らかく微笑んで顔を覗いてくれる。


−−−本当に止めてくれ、私にも未来がある


そんな風にしか思えなかった。

「ついて来てしまい……ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」

「奥様、私などに気安く話し掛けてはなりません。当主様が………いえ、敬語もお止めください」

「は、はい」

玉蓮も少し気まずそうに頷いて両手をキチンと合わせ皇毅からの連絡を待つ。

暫くすると待機場に下官が現れ家人に何やら話しかけている。
話を聞いた家人は少し焦った様相で玉蓮に礼をとった。

「奥様申し訳ありません。連絡が行き違ったようで、今しがた当主様が宮城の軒を使って帰られたそうです」

「え………そんな事、………あるのですか?」

「とにかく今出れば追い付けます急いでください」

家人も玉蓮を連れている日に行き違いに遇ってかなり焦っているようだった。

事情が飲み込めないまま急かされて葵家の軒へ乗り込むと早々と車輪留めが外され進みだした。
軒は急いでいる為かいつもよりガタリ、ガタリと揺れる気がする。玉蓮は手拭いで口許を覆い不安と後悔の念にかられた。

(皇毅様………)

半蔀から外の様子を窺うと手綱を握る家人の姿が見える。

「奥様、当主様の軒が前に見えました」

「そうですか!良かった」

安堵してそのまま前を走る軒に目を向けると、皇毅を乗せた軒は街道の角を何故だか邸とは逆の方向へ曲がってしまった。





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