郭の業火


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郭の紅い天井

その天井に霧のようにかかる紫煙

それ以上は、

−−−どうでもよかった




妓楼特有の紅い座敷に一人残された皇毅は体勢をゴロリと変えるが酒まで頭の中をぐるりと回る気がした。眼震でも起こしたか視界が揺らいでいる。

仕事は終わった。
さっさと御史台へ戻らねばならないのだが、正直かったるくて仕方がない。

身体を横たえたまま、今回の間諜として入った極秘任務を振り返ってみる。
調書を纏めればおそらくまた死体の山が一つ出来るだろう。
先程共に杯を交わしていた官吏達が、もうじき御史台に捕縛されようとは夢にも思わない様相で揚々と宣っていた。

『一を殺すは殺人、しかし、百を殺すは大義であり、それは革命だ』

(ならば、貴様等はその百だ……)

皇毅は心中で悪態をつくが、奴等につられて酒をあおり過ぎたかもしれない。
醒めるまでとそのまま眸を閉じると、腰帯辺りから何やら衣擦れの音がした。
皇毅の下半身をモゾモゾとまさぐる者がいる。

「……………」

冷えた双眸で視線だけ下ろすと郭の妓女が一人皇毅の下半身にすがり付いているのが見えた。

「………なんだお前は」

「旦那様はこのまま御泊まりになるんでしょう?」

至極どうでもよかったがここは妓楼だったことを思い出す。

「……お前はもういい、下がれ」

すると暗がりから二つの瞳孔が浮かび上がって来た。

「そんな紳士な事をぬかす旦那様に限って朝になったら『何故一度も床に入らなかった!金なんか払うもんか』と喚き散らすんですよ」

「……………」

所詮苦界、妓女にとって旦那様など全員ただの獣なのだろう。加えて先程の物騒極まりない密談を聞いていれば問題を起こさずに出ていって欲しいに違いない。

これは愈々今すぐに勘定を支払って出ていくしかないのだが未だ酔いが醒めない。

「一寝入りしたら金を払って出ていく」

取り敢えず、言いたい事だけをいい放って皇毅は眸を閉じた。





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