葵皇毅の賃仕事


「それで、具体的には何を画けば宜しいでしょうか」

「うむ……見たところ風景画ばかりだが、人物は画けるのかね?」

主人の言葉に皇毅は納得する。おそらく肖像画のことだろう。

「描けます」

嘘だった。

実は風景しか描いたことが無かったが、ここまできたら嘘八百も厭わない。

「宜しい、早速本日から頼むとしよう。家人が作業場に案内する」

「畏れ入ります」

それともう一つ、そう言う主人の双眸が神経質につり上がった。

「通された作業場以外の倉は決して覗くんじゃないぞ」

「……………無論、そのような無礼は致しません」

言葉が何か変に引っ掛かった。

しかし、違和感を流し家人と共に作業場へと向かうことにする。

この賃仕事を逃しては先がないのだ。
先のない最後には旺季に土下座して借金するしかない。しかもその横には晏樹が見下ろす屈辱の図。

(絶対、此処で稼いでくれる)

決意新たに長い廊下を渡り、作業場へ到着した皇毅は先程とは別の意外なものに目を奪われた。

積み上げられた冊子の数々、表紙には豪華な飾り模様が施され数頁開かれ中身にはあられもない女人の画。

「募集には書けませんでしたが、春画の作製になります」

「……………」

あっけらかんと告げる家人に、皇毅の気骨がガラガラと音を立て崩れてゆく。

思えば、ド素人の画など高値で売れるわけがない。ましてや顔料入れて色をつけられるはずもない。

何でそんなこと直ぐに分からなかったのだろうか。
勉強ばかりしていて常識はずれになったのだろうか。

「そんなもの、描けま………、………………分かりました」

ポン、と薄い桃色の冊子が手渡される。

「風景画しか描いたことがないようなので、先ずは桃色草紙をやってみてください。これ参考にどうぞ」

作業場には他に数人の絵師が腰をおろし黙々と絵付けに没頭していた。

「参考にしますが先ずは、美人画程度のものはどうですか」

皇毅が静かに提案するも、家人は首を横に振る。

「ちゃんと脱がせてくれないと売れませんよ。アンタだって買わんでしょう」

「……………」

この顛末、晏樹には絶対言えない。





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