お中元を貰う


可哀想な門番が少しだけ場所移動した。
奥様から少しでも離れたかったのでちょっと端に寄ってみた。それくらいの自由と権利はあるだろう。

話し相手が端に寄ってしまい玉蓮はちらり、と門番を横目で追いかけた。

「棺桶……いりませんよね?」

「天地神明に誓っていりません」

門番はまだ死にたくはありませんという本音を隠すためしつこい奥様へ適当な言葉を連ねた。

「石の棺桶など高価なもの、私には不相応でございます」

そう、つまり本当にいりません。
こんなに全身全霊で拒絶したのに、奥様は訝しげに瞳を細めた。

「貴方……石棺が高価なものだと知っているのですね……あげませんからね」

にじり寄る奥様。門番は自分呪われてると総毛立つ。
当主様早く帰って来て!この奥様の首根っこ掴まえて邸の中へ引きずり戻してくださいーーー!

門番の願いが通じたのか、奥様お待ちかねの軒がこちらへ向かってきた。
その軒は後ろにズリズリとお中元(?)の棺桶をそのまま引きずっている。
門番と玉蓮は同時に目を剥いた。

どんな運び方だ。

お中元(?)の姿に二人してぽかん、と口を開けていると疲れ切った馬が門の前で止まった。
道行く人々は足を止めて手を合わせている。

ご、誤解です…!

てっきり箱に入って密かに運ばれると思っていたのに、丸出しの棺桶引きずって来たらしい。
明日の瓦版の見出しが決まった。

『怪奇!街を練り進む棺桶』

そんな事を考えながらいよいよぼんやりしていると、軒の扉がガタリ、ギィィィと不吉な音を立てて開いた。もう本当に怖い。

中から漆黒の衣に身を包んだ棺桶業者……否、棺桶尚書が眩しそうに双眸を細めてゆっくりと出てきた。

眠い時間に起こされた屍人か。

お中元が棺桶だとは知っていたが、まさか屍人つきとは。
嬉しくない想定外に困り果てた八の字眉で門番を見た。

「読経尚書様が来ちゃいましたけど……」

「私に振らないでください!」

そんな二人のやりとりを上からとっくり眺めていた棺桶尚書の来俊臣はひょろ長い指で顎を撫でた。

「そこでワキワキしているのはもしかして、小栗鼠ちゃんかな?」

「いいえ、皇毅様の妻玉蓮です!そんな貴方様はもしや、本来はお仕事中のはずの大官、読経尚書様ではありませんか?」

小栗鼠ちゃん呼ばわりが気に入らない玉蓮の眉が逆立った。

「読経尚書?いいよ、いいよ無礼講。でもキミ分かってないねぇ〜僕は午は働かないんだよ。それに夜な夜な棺桶持ってくるなんて怖いだろうに」

玉蓮と門番は俯く。
午でも怖いんですけども。

二人を黙らせた俊臣は手を叩いて従者に棺桶を邸内へ運ぶ準備に取りかからせた。
家令の凰晄が大激怒する姿がもう今から浮かぶ。

お中元の棺桶をこっそり貰っておこうと考えていた玉蓮は言い訳をぐるぐると考えていた。

「あ……あれは、」

門番が街道の遙か彼方に目を向けていた。
おもむろに玉蓮も視線を上げるとその瞳は嬉しそうに見開かれた。

「皇毅様!」






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