風化する永劫
逞しい胸板にしがみつきながら聞こえてくる鼓動に耳を澄ましていると、髪を梳いていた皇毅がいきなり身体を起こして上に覆い被さるような体勢となる。
「あ、……」
それでも必死にしがみつく玉蓮を見て違和感の謎が解けたとばかりに皇毅は双眸を細める。
暫く頑張るが自分の身体を支えきれず、やがてぼたりと落下してしまうと玉蓮は恐る恐る見下ろしている皇毅の表情を窺ってきた。
「お前、まさか私を生殺しにする肚だったのか」
「そんな!殺すだなんてとんでもない!」
相変わらず嫌味が全く通じないと、溜め息を漏らすがくだらない作戦を立てたものだと失笑が混じる。
次いで誤解を解くために下で必死で弁解を並べる玉蓮の頬を撫でてみる。
「あ、皇毅様……」
玉蓮は顔を紅く染めながらも皇毅の手に自分の掌を重ねてきた。
怖がる癖に嬉しがる、全く乙女心と云うものは分かり辛い。
「愛し合っているというのに、お前を全くその気に出来ないのは私の落ち度だな」
「な、何のお話しをされているのですか……?」
「その気にさせてやるという話だ」
そう言うや否やその大きな掌を下衣の合わせからスッと差し入れ柔らかい肌に這わせだした。
驚いて声にならない悲鳴をあげ止めようとするが、一旦肌身に入ってきた皇毅の手を掴まえる事は中々難しい。
「あ、あの!」
「なんだ」
呼んだものの言葉が続かず続きを考えている姿を眺め、そのまま唇で言葉を塞いだ。
「んっ、……」
(皇毅、様……)
呼ぶことが出来ないまま優しく唇を吸われ、時折舌で下唇を舐められると身体の芯がジンと疼いてくる。
至極ゆっくりとした手つきに普段の強引な皇毅らしさは感じられない。
しかし胸には直接触れず肋間から臍部へと淡々とした手つきで撫でられる緩やかな愛撫が、心の何処かに余白を生み出してゆく。
この隅の小さな余白こそが皇毅が引き出そうとする『もの足りない欲求』だとはまだ理解できず、眉間に力が入り息が上がる感覚に翻弄されだす。
皇毅は徐々に熱く紅潮してゆく身体を肌で感じながら玉蓮の表情の移り変わりを見逃さないようにしていた。
「して欲しい事は口にして構わないんだぞ」
「そんな、恥ずかしい……」
「ふ、恥ずかしいのはお互い様だろう」
ねだるのはまだ無理かと愛撫を続ける為に下肢へと腕を伸ばしたその時
−−−コツン
何かが窓に当たる音が小さく響いた。
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