二極の脇侍


室の灯りはおとしてあったが、清雅と監察御史の目には玉蓮の姿がまざまざと確認できる程の距離。

玉蓮は弁解の言葉も皇毅への謝罪も口に出来ないまま途方に暮れそのまま座り込んで項垂れた。

室に暫く沈黙が続いた後、その空気を破ったのは清雅であった。

「長官、もう一つ伺いたいのですが宜しいでしょうか」

半ば開き直って腕を組む皇毅に何だ、と返されれば姿勢を正したまま疑問を投げ掛けた。

「長官がそこの足手纏い、いえ罪人を抱え込む利点をお聞かせください」

「ならば、私も訊くがお前がこの場に出て来る理由は何だ」

「質問をしているのは此方です」

玉蓮と監察御史は二人の険悪なやり取りに息を飲む。
上司の威圧的な態度に屈しない者だけが生き残れる官吏の世界を知る監察御史も、後宮で幾度となく争い事を見てきた玉蓮も肌で理解していた。

このままでは二人は潰し合いを始める。

「ならば腹を割って要点を纏めてやる。そこに転がっている罪人がお前の切り札か。それならば私はそこの監察御史が切り札だ。監察御史と私の癒着を証明してみろ、私はそこの監察御史が己の金目当てで罪人を一人くすね妓楼に売った事を証明してやる」

それを聞いた監察御史は驚き皇毅を震える瞳で見据えた。

「これは御史の不正、決して刑部に送らん。分かるか?お前と私の潰し合いで実際に潰されるのは女と監察御史という事だ。泥仕合の結果は見えているが、どうだやってみるか」

「長官は実際に私にも女の戸籍抹消を命じられています」

「お前は流刑という刑の意味は分かるか、情勢が代われば復権出来る可能性がある高官が喰らう処分だ。身分を落としてもそんなもの回復する事は簡単だ。その可能性を潰す為に罪人の戸籍を消してしまう事はよくある。私は言った筈だ、『一族全員の戸籍を消せ』とな」

「………」

清雅は瞠目した。
極秘任務は全て口頭で伝えられる。
その為に文章が残らない。つまり命令に対する証拠がないのだ。




[ 65/76 ]

[*prev] [next#]
[戻る]
<br />



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -