分裂


−−−

『私が留守の間に三の姫側から遣いが来るかもしれない。もし現れたら私は投げつけられた扇の当たり処が悪く寝込んでいると伝えておけ。面会謝絶だ』

そう伝えられていた。

しかし、宴席の時刻を過ぎようとも客人や面会に訪れる者は居なかった。
某かは此方の状況を把握しに来ても良さそうなものなのだが、開門の呼び掛けは一向に掛からない。
家人達が落ち着きを取り戻しつつある中、凰晄は一人その不自然さが妙に恐ろしく徐々に混迷していく。

皇毅が既に刑部を抑えに向かっているのだし、御史台が関わって来る事もないだろう。

しかし、皇毅はまだ何か隠している。
刑部に向かうと言っていたがそれだけではない気がするのだ。
そして玉蓮を連れて行った事で凰晄の疑心は深まってゆく。


(冷静に考えてみれば何故−−−あの子を邸に入れてしまったのか)

今更だが自らの額に手を当て項垂れた。
一度迎え入れたのだから、今後責任ある態度をとる事が家令としての役目だ。

しかし皇毅は最初から「妻にしたい」と告げていた。

明らかに事が荒れるのは見えていたのに、門前で止めるどころか三の姫が退いた今、皇毅の望み通りに玉蓮を妻にすれば良いと至極安直に考えていた。

しかし、やはり彼女の素性には不審な点がありすぎる。
良家貴族の娘が医女である事も、まして妓楼に居るはずもない。
彼女の何かが嘘っぱちなのだ。

今に皇毅の手に負えない事態になるのではないだろうか。

(あの子を皇毅の妻にとも考えたが……葵家の後継よりも皇毅の保身を考えるべきなのか…)

二人の仲を引き裂いても、別々の人生を用意しておけば歩む事は出来るだろう。

凰晄は葵家を預った家令として自責の念にかられ、皇毅の気遣いばかりしていた玉蓮の顔を思い出す。

(貴女が三の姫であったなら……どんなに良かったか)

「凰晄様、灯籠の数は如何しましょうか」

不意に後ろに控えていた家人に尋ねられて、ハッとする。

「あまり煌々とさせることもあるまい。いつも通りに灯りを落としてよい」

そう言い付けた矢先、門前で軒が車輪を停めていた。



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