序章


まだ夜も明けきらぬ暗い室の片隅にある寝台の中、皇毅は横になったまま片肘をついて顔だけを起こしていた。

室内は溶け切ったロウの臭いと数刻前までの情事後特有の香りが混ざって空気を重くしている。

虚ろな視線の先には、皇毅に寄り添ったまま目を醒まさない一人の女性がいた。

触るわけでも声をかけるわけでもなく、時折長い瞬きをしながら皇毅は彼女を見ていた。

ふと思い付き寝台脇の小棚に視線を向ける。
暗がりの中に昨夜、彼女が運んで来た白い皿が目に入り長い腕を伸ばした。

確かまだいくつかあったと指で皿を探ると、中にあった小さな砂糖菓子が指に触れた。

彼女がとても美味しいからと言って差し出した小さな砂糖菓子を長い指で器用に拐い、自分の口に含ませれば甘い林檎の風味が口に広がる。

皇毅は口の中で砂糖菓子が崩れてしまう前に、目の前で寝息を立てる彼女の顎を掬ってそっと口付けてみた。

甘い唇と砂糖の甘さを堪能していると、彼女はうんっと少し身じろぎをして眉をひそめる。

起きるか?と思ったがまだ夢うつつの様な表情。そうかと思うと今度は唇と小さな舌を使って甘くなった皇毅の唇を味わうかのように吸って来た。

昨夜は皇毅の唇に怯えていた彼女は、おそらく菓子の甘さを夢の中ででも堪能しているのだろう。

皇毅はニヤリと笑って彼女の項に手を添えてそのまま唇で愛撫を続ける。

チュッ、チュッと音のする唇の心地よさを感じながら砂糖菓子は後いつく皿に残っていただろう、と悪い考えを巡らせていた。




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