大輪の華


到着した三の姫は出迎える葵家の家人達を見てサッと扇を広げ美しい素顔を覆う。

実家の侍女に手を取られ軒からゆったりと降り立ち、ふぅ、と溜め息を吐くその仕草さえ優雅だった。

しかし凰晄の見立てに狂いがなければ、彼女を一言で表すと


『苛烈』


一見では文句の付け所のない美しい姫だった。
優美かつ豪華な装飾品に決して退けをとらぬ白い肌に艶めく漆黒の御髪、何より長い睫毛に縁取られた翡翠色の瞳は見たものを吸い込みそうな輝きを放っていた。

玉蓮が野陰に咲く白い薔薇ならば、彼女は大切に育てられ大輪の華を咲かせる艶やかな紅い薔薇だった。

しかし見るものを虜にする優雅さの反面、深窓で大切に育てられ全てが思うが儘になると信じている激しい気性が人を見てきた経験の長い凰晄は一目で察する。

故に苛烈だと感じた。

どうしてこの様な美しい姫を後宮に上げず秘蔵としてきたのか、それは貴族派名門である三の姫の父が王より皇毅を選んだからであった。

必ずや乗し上がり大官となる事を信じて秘蔵し、皇毅の為に育てた姫。

嘗ては三の姫を嫁がせる障害だと煙たく思っていた旺季の姫も退き、正室の座は最早確実と踏み三の姫が女盛りとなり最上の美しい華を咲かせたこの時に、旺季の後押しをも取り付け皇毅へ贈った。

凰晄は扇の奥に隠れたその姫に口上する。

「ようこそお出でくださいました。家令を務めます環凰晄でございます」

凰晄は一礼するが、三の姫の扇は下げられなかった。

「家令が女性なんて珍しいわ」

三の姫は家令である凰晄に挨拶を返さなかった。
ただ気に入らないわ、という言葉だけを投げつけそのまま足を進める。
凰晄は眉一つ動かさなかったが周りの家人は驚き、合わせる手を気付かれぬ程度に握り締めていた。

邸の中では待機する侍女達が三の姫見たさに色めき立ち玉蓮もその中にいた。

凰晄に新入りとして紹介されてはいたが今日はもうそれどころではない侍女達の雑踏の中に埋もれてしまっている。

「三の姫様がお入りになるわよ」

「緊張するわ」

「あの……今日のお客様ですか?」

一人ずれた質問をする玉蓮だが侍女の一人が嬉しそうに教えてくれた。

「新入りさんにも教えてあげないとね、今日のお客様は当主様の奥様になる方よ」

「え……」

何を言われたのか一瞬分からなかった。

玉蓮はそれ以上質問出来ないまま色めき立つ侍女達の中に紛れていた。




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