雷鳴迫る曙
火桶で暖をとった室は眠っているには心地よく、明け方うっすら瞳を開けた玉蓮はそのまま掛け布にくるまった。
しかしふと視線を彷徨わせると室の椅子に凭れて目を閉じている皇毅が見えた。
「皇毅様……!」
驚いて掛け布を持って飛び起きる。
皇毅は何故まだ此処にいるのだろうか。
「起きたのか……」
皇毅もゆっくりと瞼を持ち上げるが眠っていた為かその声は幾分掠れている。
「お風邪を召されたら大変なのに」
持っていた掛け布を渡そうと傍に寄ると皇毅は掛け布ではなく、ほんのり温かな玉蓮の身体を抱きかかえ暖をとりだした。
玉蓮はあわあわと驚きつつ冷えた皇毅の身体が心配で持っていた掛け布を肩口に回す。
昨日から抱きかかえられ通しで拒絶するタイミングを完全に外してしまっている気がする。
そして玉蓮は自分の心の底に向き合いたくない感情が潜むのを嫌でも感じ始めていた。
皇毅が自分を引き寄せる度に身体に痺れが起こる。
これが愛しい人に触れられる感覚なのかもしれない。
しかしその気持ちが正直怖くて仕方なかった。
誰にでも優しくする人には見えないけれど、勘違いして「お慕いしています」などと口走れば冷たく突き放されそうで本当に怖い。
それはこの邸からも追い出される事を意味しているのだから、立場を弁えなければいけない。
遣える主人としてお慕いするだけで十分だと思うし、未熟な自分であるからそうさせて欲しい。
「皇毅様……」
甘えた声で呼んで来る癖にちっとも抱き返して来ない玉蓮に皇毅は少しムッとするが、触れる度に隠しきれず震えている身体に満足して更に引き寄せる。
「これから客が来るが気にしなくていい」
「え……?」
今日執り行われるらしい宴席のお客様の事だろうか。
どういう事ですか?と訊こうとした時、室の外に人の気配がした。
「玉蓮、入りますよ」
凰晄様−−−
「お、お待ち下さいませ!」
玉蓮は一瞬で全力を込めて皇毅を突き放しにかかる。
こんな状態を凰晄に見られるなどあり得ない。
しかし皇毅は眉を顰めて玉蓮の身体を抱き寄せ抑えつける。
「皇毅様!離して下さい、離してっ……!」
そんな狭い室の中の様子は入らなくてもまる分かりだった。
凰晄は拒絶された皇毅が自棄を起こさない内に室の扉を開けた。
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