葵家の門


皇毅は玉蓮を抱えたまま桃遊楼の裏口へと抜ける階段に入っていたが、背後から清雅が無遠慮に二階へと上がって来る音を聞いて暗がりに身を屈めた。

玉蓮は皇毅の腕の中で何が起こっているのかと目をパチパチさながら皇毅の表情を窺っている。

「少しの間、声を立てるな」

囁くように念を押され訳も分からずコクコクと頷き一緒に息を潜める。
しかし緊迫している状況ではあったが、皇毅の表情が至極落ち着いたものだったので玉蓮も寄り添いながらも落ち着いていられた。

裏口へと続く階段の入り口には階段を隠す為の薄い木戸が天井に備え付けられており、皇毅はこの存在に気が付いて通り抜ける際木戸を降ろしておいた。

今二人がいる場所は隠し通路となり二階の回廊から階段は目につかないはずである。

あとは妓楼に暫々存在する非常の際要人達を裏から逃がす隠し通路、この場所を清雅が見付けて来るかどうか。

皇毅の興味はもう一つ、清雅が何故玉蓮を追跡できたのか。

「二階にいる女共は全て出てこい!」

「官吏様、どうかもうお許し下さい玉蓮という者は他にはおりません」

説得する主人の後ろから不寝番達が清雅を抑えにかかる。
ただならぬ騒動に客や妓女達が羽織りも乱れたまま様子を窺う為に座敷から顔を出し始めた。

「おい、玉蓮聞いているのか!お前の処分は不当だ、此処から出してやるから出て来い!お前には訴える権利がある、俺が上申を纏めてやる出て来い!」

清雅の言葉を聞いて皇毅は舌打ちし、玉蓮は目を丸くした。

清雅の思惑は二通りが考えられる。
玉蓮を使って皇毅を追い落とすか若しくは、玉蓮の為になけなしの正義をふり翳しているか。

前者なら望む所だ、返り討ちにしてやればいいだけの事だった。
しかし後者の場合−−−

(おもしろくもない……)

皇毅は顛末を此処で聞いているつもりだったが、興味が失せたとばかりに出口に向かい降りて行った。

座敷からは次々と客や妓女が覗いている中、一つだけ扉の開かない室が清雅の目に留まった。
続いて不寝番を力ずくで振り払い開かない室の扉を叩く。
中から人の気配はしない。

「主人、この室を開けろ。此処を確認したら引き上げてやる」

清雅に言われ引き上げてくれるのならばと主人は渋々と扉を開けた。




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