追跡者


この見世にはそんな灰の暗い情念が渦巻いているようだった。
撹乱の為に玉蓮を妓楼に送り込んだのだが急を要したとはいえ、かなり大雑把な策だったと後悔のような後味の悪い気分になる。

「恐ろしい目に合わせたな」

静かに言って玉蓮の様子を見ると小さな返事をしたものの、身体の力が抜けていくのが分かった。
流されるだけに見えて、意外に根性据わりまくっているなと失笑し額に手を当てる。

次いで玉蓮の顎を掬って唇を拐ってみた。

先程とは違い優しく啄む様に合わせるだけで満足し、身体を重ねたいという欲はしまい込んで寝かせる為に抱き上げる。

しかし寝台に運ぼうとした時、格子窓の外から聞き覚えのある声がした。

「主、今日玉蓮という女が売られて来なかったか?」

−−−清雅


流石に皇毅も驚愕し、角度に気を付け格子窓から下の様子を窺う。

女嫌いの清雅が足が着かない程の妓楼で遊ぶ姿であれば見物だったが、この夜更けに訪れ今明らかに玉蓮を探していると口にしていた。

清雅はそのまま視界から消え、どうやら見世の中に入って来てしまった様だ。

一階にある見世の中待ち室で止められた清雅は、見世の主人や用心棒でもある不寝番達と対峙していた。

「若様、この度は手前共の見世に登楼していただき誠にありがとうございます。ですが生憎、本日は満室にて大変申し訳無い次第でございます」

主人が頭を下げて見せるが清雅は苛立たしげに声を上げる。

「俺は客ではない。玉蓮という女を探していると言っている、此処に来たのだろう?」

知っていると鎌を掛けてみれば主人の目が泳いだ。
やっと見つけた、この見世だと清雅は満足気に腕を組む。

「王朝の官吏をしている者だ。とある犯罪に関わった女の行方を追跡している。協力しなければ同罪だぞ、隠し立てせずに今すぐ出せ」

「こ、これは、官吏様でしたか!畏れいります夜分にご苦足労様でございます。承知致しました、この見世におります玉蓮を連れて参りますので暫しお待ち下さいませ」

清雅の勢いにのまれた主人が伏礼し、不寝番達に清雅を此処で足留めしていろと目配せして二階に駆け上がる。

主人は迷わず皇毅と玉蓮の居る座敷の扉を叩いた。




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