郭の褥


皇毅は出ていったまま中々戻っては来なかった。
静かな室の四方から楽しそうな妓女達の声色が再び聞こえて来る。
彼女達は本当に楽しいのだろうか、もし同じく苦しい気持ちを隠して振る舞っているのなら自分も我慢して楽しそうにしなければいけないのかもしれない。

皇毅がずっと此処に居てくれるわけでもないだろう、そして帰る場所もなくなってしまった。玉蓮は丸めて寝台の下に押し込めてしまった衣を目を伏せながらゆっくり引き出す。
これを着ないと生きていけないかもしれない、段々現実が染み込む様に心に入って来る。

すると室の扉が引かれ皇毅が戻って来た。
玉蓮は皇毅を見ても嬉しいと思う気持ちが薄らいでいるのを感じた。
それは悲しい事だったが、この気持ちが憎しみに変わってしまう前にお別れを言いたかった。

「大夫様……」

力なく呼んで座敷へと戻り一礼する。皇毅は今度はゆっくりと膳の前に座り玉蓮も横に控えるようにして座した。

「こ、これを着てお迎えするよう言われていたのですが私まだ動転していて、申し訳ありません」

そう言って手に握っている衣をそっと脇に追いやる。
笑おうと思ったのに笑えなかった。

「そんな衣着るつもりだったのか」

「………」

貴方のせいではありませんか、そう叫びそうになったが目を瞑り堪えた。
実際の所皇毅のせいなのかは分からなかったし本質的には自分自身のせいなのだと言い聞かせる。

「大夫様、こういった話を聞いた事があります」

玉蓮は両手を合わせてぽつりぽつりと話を始める。

「妓楼には訪れる高官達から漏れ聞いた話を雇い主に流す情報屋の妓女がいるそうです」

「………」

「申し訳ありませんが、私の様な者には不向きです」

皇毅は溜め息を吐いて自分で酒を注いで口に流し込む。
その様子に落胆されたと感じたがそれで良かった。

「私は、もう二度と犯罪には関わりません。此処で私の犯した罪の贖罪をさせていただきます。ですからもう、捨て置き下さい。お願いします」

玉蓮は手を付いて頭を下げた。
これで否、と言われたらこの人は鬼なんだと思う。

「情報屋とか何とかどこで吹き込まれたのか知らんが、お前にそんな愉快な人生用意してない」

玉蓮は頭を上げて皇毅を見る。
目には涙が溜っていたが零れ落ちないように堪えながら何とか続ける。




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