天女ではなく


そう言ってまた悲しそうに頭を下げる玉蓮に溜め息が出る。

「お前を責めているわけではない」

「はい……」

変に賢く、物事をややこしく考える彼女の身体を横たえて自分もぴったりと寄り添い、掛ける言葉をもて余しながら暗い天井を眺めてみる。
普段は仮眠室の天井飾りなど目にも留めなかったが、改めて眺め上げると中々凝った造りになっている。

天井画には天女とおぼしき女人が小さく描かれており、また天女を探す男が一人。
それを見た皇毅は失笑しそうになる。

「玉蓮、天井を見てみろ。傑作なものが画かれているぞ」

皇毅の笑いを堪えたような声に玉蓮も顔を上げて天井を見あげてみた。
すると暗闇に慣れた玉蓮にも天井画が目に入ってくる。

「何の絵でしょうか」

「ある女と、女を探す男の図だ。男が立つ後ろの木枝にヒラヒラした布が吊るしてあるのが分かるか?あれは女の羽衣だ。天女として天に還る為の羽衣を男が隠している民話の飾り画だろう。差詰め後宮の天井画の為に作られたがボツ食らって気にも留めそうにない御史の仮眠室に貼り付けたな」

「何故男の方はそんな意地悪をされたのですか?」

「男が天女に惚れてしまったからだ。羽衣を返したら女が天に還ってしまうから邪魔をしてるのだろうな。人として最低最悪だろう?しかし、男としてはマトモだ。色恋に落ちた男はあれくらい馬鹿丸出しになるものだ。−−−私もな」

「……皇毅様」

着崩れた官服を握り締めて頬を寄せる玉蓮は目を閉じる。
自分には羽衣もないし、帰る場所といえば地方にある廃墟となった実家くらいなものだ。
養女にすらなっていない親類との縁は切れたも同然、完全にあの絵画とは真逆の役回りな気がする。

「私も、天女みたいな……そんな人だったら、良かった」

「そんな御大層な女だったら私じゃなくて他当たれ」

「え?どうしてですか」

瞳を開けて皇毅の顔を見上げてみる。
また三の姫に嫉妬していると思われたのだろうか。
それも否めないが、自分はやはり三の姫の様にはなれそうにない。
羽衣があろうが無かろうが天女は生まれながらの天人。
憧れた女が羽衣を手にしても、きっと天女にはなれないのに。




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