誠実には程遠い


瞳を閉じて静かになる玉蓮に身体を温める茶を出そうと立ち上がる凰晄だが、扉の外に気配を感じ目を眇めた。

戸前に立ち此方の様子を耳で探っているようだ。
そうと分かると凰晄は口の端をあげて踵を返した。
室の暗がりを手探りで探し、抽斗を開けると護身用の棍棒を取り出す。

外の怪しい気配に気がつかず椅子の上でぼんやりとする玉蓮の肩をトントン、と叩いて扉を注視するよう促した。

「戸の外に皇毅がいる。お前を助けに来たのか、はたまた、ただ様子を探っているだけなのか。当主の情を試してみようではないか」

「情とは?」

凰晄は玉蓮の承諾など待つことなく握りしめた棍棒を振り上げ室の柱にガン、と大きく叩きつけた。


−−−−ガンガン、!ドンドン、!


盛大な打撲音が室内にこだまする。
棍棒で柱を殴る凰晄の姿は気が振れたようにしか見えなかった。
先ほど「皇毅の情を」と説明された事など頭から弾け飛び真っ青になった玉蓮が体当たりでしがみつく。
しつこく振り上げる腕を取り制止した。

「凰晄様ッ!何をされるのですか!!柱が……柱が壊れます」

玉蓮の悲鳴は確実に室外へ漏れている。
音だけで判断するならば、凰晄が棍棒で玉蓮を叩いているように聞こえる事だろう。

凰晄は見計らって戸口に向かって声を上げた。

「この女狐!」

玉蓮に向かって罵声を浴びせる。
意味不明でポカン、と口を開けてしがみついたまま固まる玉蓮の間抜け面と同時に、外から扉が蹴破られる音が響いた。

渾身込めて蹴られた扉は金具が外れるだけでなく盛大に破壊されて室側へと倒れてきた。
その外には額に青筋たてる皇毅が仁王立ちになっていた。

葵家当主と葵家家令の間で板挟みになっている玉蓮の頭は最早真っ白だったが、ぽつりと感想が脳裏に落ちてきた。

(怖すぎる……)

そんな切ない脳裏の独り言とともに、しがみついていた背からずり落ちて床に転がった。
何故こうなっているのか考えなくてはならないのだが、もう起きたく無かった。

無惨に転がる玉蓮の姿は家令から罰を与えられ気絶してしまったように皇毅の目には映ったようだ。

つかつかと暗い室内へ進入すると玉蓮を抱え上げ棍棒を握りしめたままの家令に軽蔑の眼差しを向ける。

「使用人を罰するのはお前の仕事だがこんなやり方だったとはな」

皇毅の口調には棘があったが凰晄の口から溜息がもれる。
諦念したような、深い溜息だった。

「使用人と言いましたか」

「何?」

「この子はやはり使用人ですか」

その言葉一つで凰晄が鎌を掛けていた事を察した皇毅は狼狽えるかと思いきやほくそ笑む。
皇毅も茶番劇を疑っていた。この家令が女人を棍棒で殴るはずがないのだ。

「お前の為に使用人と云う事にしておいてやったのだ。そうでなければ”使用人のお前こそ”斬首にされても文句垂れられんだろうからな。優しい主人で良かったな」







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