ちぐはぐな音色


未だに慕っている。養い親から救ってくれた恩を忘れてなどいないのに。
どうしてこんなに関係が拗れてしまっているのか秘密を教えて欲しい。
その目的の為に戻って来たのだと反芻する。

耐えない涙をなんとか堪えながら蜜柑の香りの謎を問いただそうとすると、なんだか後ろに押されている気がした。

(え、……)

押し返すとまた押された。
気のせいでない。

「皇毅様……あの、押さないでください」

「いい加減寝たいだけだ」

「お休みになってくださいませ」

えいや、と押し返すと皇毅は枕の上に寝転がった。

「お前は寝ないのか。夜伽のくせに」

夜伽のくせにってなんですか、そう無言で睨みつけると皇毅はばつが悪そうに目を閉じた。
どうせ狸寝入りだろうからと足の方へ移動して疲れているだろう足裏を揉んでみる。

「お前……自分の事は触らせないくせに、人の事は断りもなく触りまくりとはどういう事だ。嫌がらせか」

狸寝入りの眸がうっすらと開いて冷えた視線が向けられた。
そんなことにも慣れっこになり構わず足の裏を圧す。

「私は医女です。後宮で貴妃専属まで上り詰めた実力派でございます。有り難く揉んでもらってくださいませ」

「貴妃とはまさかあの賃仕事貴妃のことか?よくも毒殺されずに出てきたものだ。お前もな」

また嫌な事を言われて玉蓮は頬を膨らませて俯いた。
後宮に下賜される品は屡々毒に浸かっていた。
鉛入りの白粉に毒針、銀の箸を刺すと黒くなる食事。

「秀麗様をお守りするのが私の役目でした。でも今、秀麗様をお守りしてくださっているのは、こうきさ…」

「賃仕事貴妃のその後など知らん。そういえば蜜柑がどうとか言っていたが、蜜柑を食べればどこで嗅いだのか思い出すかもしれないな」

皇毅は起きあがって手を伸ばし、お目当ての身体を引き寄せようとするが、直球で解釈した玉蓮は身を翻した。

「食べると思い出すのですね!?ではお蜜柑頂いて参ります。必ず思い出してくださいね」

おい待て、と制止しようとする皇毅をおいて走って消えてしまった。
蜜柑とは玉蓮の事で、食べたいと言ったのはお誘いのつもりだったのに…。

(あいつには難しすぎる含み言葉だったか……)

取り残された皇毅はもう一度枕に倒れ込んだ。


玉蓮は急いで蜜柑が積んであったはずの厨房場へ入るが、残念ながら既に品切れだった。
当主は特別蜜柑好きという事もなく家人達で分けあう事を許されているためすぐに無くなってしまうのだ。

「あ、そうだ、侍女の皆様がたくさん前掛けにくるんでいたわ」

夜食に蜜柑を頂こうと我先に蜜柑を手にとる侍女を思いだし室へと向かう。
前触れもなく扉を開けると一礼した。

「お蜜柑ください」

「ぎゃあ!」

夜な夜ないきなり現れた玉蓮に侍女は驚き叫んだが、当主様が蜜柑をご所望だと知ると断れるはずもなくまた泣いた。




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