大官の内緒話


状況とはまるで関係ない事を考えている玉蓮だが、はたから見れば健気に皇毅に抱きついているようだった。

その様子に晏樹は「また失敗」とでも言いたそうに肩を竦めた。
皇毅はその顔を一瞥してやはり何か企んでいたなと確信し玉蓮を抱き上げ踵を返した。

「そこでまってろ浮遊クラゲ」

「怖いから帰ろうかな…」

短いやりとりをしたと思えば、あれよという間に玉蓮の視界から晏樹の姿が遠ざかる。再び動き出したと思った歯車がまた止まってしまった。
晏樹が言い掛けた事を必死で思い出しながら皇毅にしがみついているとまたすぐにペイ、と放られた。

今度は西偏殿の皇毅の臥室にある柔らかい寝台の上だったが、二度も盛大に転がされてさすがに震撼した。

やっぱり扱いが適当すぎる。

ようやく自分の事に気が向いた玉蓮は勇ましく起きあがって何の説明もないまま立ち去ろうとする皇毅の前に猛然と立ちふさがった。

「物じゃないんですから放らないでください!」

「不用意に二足歩行のトドに目を付けられるな」

二足歩行のトドってなんだろうか。
訳のわからない事を言われて首を傾げた隙に皇毅は出て行ってしまった。

「扱い適当な上に……蚊帳の外過ぎる…」

玉蓮はわなわなと肩を震わせ、歯車が止まる前にもう一回晏樹のもとへ行こうと扉を押すが外から鍵が掛けられたのか開かなかった。

この扉外側から鍵なんて掛けられたかしらとガタガタ揺らしていたら外に人影が見えた。
背格好から男の家人のようだった。

「すみません、扉が壊れて開かないんです。そこから蹴り破ってくださいませんか」

皇毅の室の扉を蹴り破れと言われて外の家人は固まったようだっがやがて返事が返ってきた。

「当主様より室から出すなとの命で私が塞いでおります。どうか当主様が戻られるまで此処で待っていてください」

「なんですかそれ!それなら私が蹴破ります!」

恐ろしい宣言が中から聞こえて家人はまた固まった。
しかし冗談ではなく中からドシン、バタン、と扉に体当たりしてくる音と振動に扉が揺れだす。

「お嬢様おやめ、おやめください!お身体に怪我でもされたら私がお咎めを受けます」

「受けませんとも!」

ドシン、ガタン!

可憐な容に伴わない行動に家人は必死に扉を押さえ懇願を続けるしかなかった。
このままでは本当に蹴破られるかもしれないがその頃にはお嬢様の身体は打撲だらけだろう。
壊れた扉と打撲だらけのお嬢様を見た当主様の鬼の形相が浮かぶようだった。

おやめください、おやめください、としつこい九官鳥のようになっていた家人は回廊の先から皇毅が戻ってくる姿に目を潤ませた。

「当主様!玉蓮様が荒ぶっておいでです。なんとかしてください」

「いつ切れるのかと思っていたが、ついに堪忍袋の緒が切れたか」

皇毅は外れ掛けた蝶番を見上げ扉を開けると、身体が痛くて半泣きになっている玉蓮が扉にぶつかる勢いで転がり出てきた。

疲れ果て今にも倒れそうな身体を皇毅はすべて受け止めるように抱きとめた。





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