謎の夜
−−−−−−−−−−−−−−−−−
−−−ふわふわと、温かい
懐かしい香りと衣擦れの音がする
誰かに抱かれている
(皇毅様……)
きっと夢を見ているのだろう。
目を閉じているはずなのに紗が揺れるのが見え、紗の輝きから浮かび上がる陰影は皇毅の貌。
美しい月映紗の揺らめきを感じながら温かい身体を抱いてみる。
するととびきり優しく抱き返された。
夢の中での彼はすっかり玉蓮の理想の人になっていた。優しくて、頼もしい、唯一の愛しい殿方だった。
夢の中くらいでは正直になろうと恋しさ募らせた名を口にしてみる。
ふわふわと落ち着かなく、自分の声は脳裏に響くばかりで彼に届いているのか分からなかったが、耳許に吐息のような低い声が吹き掛けられた。
−−−−−玉蓮
やはり彼だ。
舌が耳朶に触れると身体の中心が熱くなり、逃れようとするのに覆い被さる皇毅は徐々に色々な所に口づけ、太股の内側を撫でてくる。
ーーーーあぁん、いけません……こうきさま
温かくて、気持ち良くて、そしてとっても恥ずかしい、
そんな夢をみてしまった………。
−−−−−−−−−−
……ひめさま、
「姫様ぁーー!いい加減起きてくださいよ!ちょっと、どんだけ図太いんですかぁーー!」
パチリ、と目を開けると辺りはすっかり明るくなっていた。
玉蓮は目を見開いたまま暫く固まっていたが、やがてきょろきょろと周囲を見渡す。
すっかり明るい室内。
「こ、ここは何処……?」
私は、誰?とか言うのではあるまいな、叩き起こした侍女は頬をひくつかせる。
「此処は当主様のお室の寝台です。そして当主様をお見送りせずに寝こけているのは姫様です。当主様はとっくの昔にご出仕致しましたよ」
玉蓮は言われるままに床を見下ろす。
確かに寝台の上だった。
昨夜は皇毅と碁を打って、あっさり負けて、それで夜伽の為に寝台の下で座って番をしていたはずなのに、それなのに何故寝台の上で寝ているのだろうか。
「……私、どうしてここで寝ているの」
はぁーー、と侍女は盛大に溜息を吐いた。
「姫様は昨日も当主様のお室の掃除と称してこの寝台でお午寝していたではありませんか。まさか朝っぱらからこんなところで寝ているなんて」
そこで侍女は停止する。
ん、?アレ……?
朝っぱらから侵入して寝ていたのではなく、もしかして昨日の夜から此処にいた?
途端に侍女の両目がカッ開いた。
今まで人の寝台で勝手に午寝している姿しか見たことなかったので肝心な事を失念していた。
「姫様…、も、ももしかして…!当主様と、どど、同衾されたのでしょうか……!?」
上擦りながら尋ねてみると、薄い翡翠の瞳が零れ落ちそうなくらい玉蓮も目を見開いており、しかも混乱したように視線が宙を彷徨っていた。
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