師匠との約束


玉蓮を探しているのか、縹家との繋がりが疑われる丸薬を探しているのかのニ択。清雅は玉蓮を探している単純な理由の方だと思った。

いつまでも腹が立つほどの甘い女のやりそうな事。

駄目な人を放っていけない秀麗の性分は冗官に落とされた時に嫌というほど目にしていた。
あんな甘ちゃんがよくもまあ御史をやっているものだと嫌み混じりで感心すると溜息が一つ漏れた。

もっと楽しませてくれると思っていたのに、こんな事で落とされるならば、やはり女という生き物はつまらない。

清雅は棚に飾ってあった一輪挿しを手に取り、二階の窓から三人衆めがけてブン投げた。

その気配にいち早く気がついたのは静蘭だったが、飛んでくる方向をいち早く読みとったのか、視線だけを動かし静止したままだった。

なので花瓶は音もなく飛んで見事に蘇芳の後頭部に命中した。

「イテェッ!!」

当たってから気がついた蘇芳の悲しげな悲鳴が上がった。
あの羽林軍の武官、秀麗と自分しか守る気サラサラないんだなと納得した清雅は窓から下を見下ろした。

「なんで花瓶が空から降ってくるのよ」と驚愕し見上げた秀麗は注がれる視線に気がつくと目を剥き口をひん曲げた。

「やっぱりでた……悪の親玉の子分」

清雅が悪の親玉の子分ならば秀麗自身も立派な子分なのだが、本人はそのつもりは全く無いらしい。

皇毅が知れば、即座に評定審査表を取り出しなにやら邪悪な事を書き加えていた事だろう。

見下ろされているのが更に不服な秀麗は、悔しそうに拳を握り締め、白熱した返答をしようとしたその時、それ遮るように静蘭が口を開いた。

「花瓶が割れなくて良かったですねタンタン君。こんな一輪挿しでもタンタン君の俸禄三ヶ月分と見受けますよ。お嬢様、花瓶が無事だったので気にせず参りましょう」

三人の中で静蘭だけは清雅に対し冷静だった。
ここに御史台が入っている事は分かっていたこと。花瓶を投げつけ窓から見下ろす男も官吏なのだろうと容易に予想がついたので関わらない方がいいと秀麗を促した。

そ、そうね、と秀麗は深呼吸してから清雅に聞こえるように大声を張り上げた。

「私達、今日は非番で遊びに来ただけですからね!どこぞの冷血漢どもに邪魔される筋合いはないわ」

行きましょうと秀麗は見なかった事にして廂の中に消えていった。

皇毅の命令を無視して勝手な行動をして、後にどうなっても清雅の知った事ではないが、秀麗達が今夜開かれる賭博場に現れるのは間違いなさそうだ。

医女を救うためなのか、それとも捕まえるためなのか、どちらにせよ決着はつくだろう。

それまで泳がせておくか、と面白半分そう思い清雅も全く無駄口を叩かなくなった護衛を連れて踵を返した。



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陽が沈み、妓楼の天井や回廊に煌々と灯が入る。
今日は霧が濃く闇が澱んでいた。

しかし、玉蓮にとっては好都合となった。
数多の妓女達に紛れ遊興場へと出られる。そしてこの霧に紛れ豪華な一等室で行われる豪商や官吏達の賭博場まで行ける。

胡蝶はきっと玉蓮がこんな大胆な事をしでかしている事は知らない。
彼女の信頼があってこそコウガ楼の門をくぐれたのに、その信頼を裏切っている。
きっと秀麗も胡蝶もこんな自分にはもう二度と関わりたくはないと背を向けるだろうから、機会はこれで最後となるのだろう。

皇毅に会える最後の機会だ。





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