月夜の晩


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月明かりに照らされる白い石畳を辿れば皇毅の待つ西の対の屋。

溌剌な娘を寝かし付け、漸く夫婦二人だけの刻がやってきた。

午に届けられた皇毅からの文には『夜のお誘い』を思わせる詩が添えられていた。

その詩を思い出しながら少し頬を紅らめ歩いていると、向かい側から息子が静かに歩いて来た。

「母上」

「あら、どうしたの。こんな時間までお勉強?」

息子はコクリ、と首を倒す。

「最近、医学書を読み始めました。解らない事がありまして母上に教えて頂きたいのです」

「まぁ!医学書を」

玉蓮は幼い息子が医学書にも興味を持ってくれた事に瞳を輝かせた。

「是非ご指南ください」

「私でよければいつでも教えてあげるわね」

では、早速今夜からお願いします、と息子は自室へ母の手を引いた。
しかしその目に西の回廊から皇毅が向かってくる姿が映り込む。

やばい。

「母上、急いで行きましょう」

「お祖母様にお夜食作って頂きましょうか?美味しいお茶もあるのよ」

「……い、いいですから早く」

薄い色の眸をすがめて息子は早足になる。
しかし子供の足で皇毅を引き離すのは難しかった。

あっと云う間に追い付かれガシリと皇毅に襟を捕まれるとムッと口許を歪めた。

「こんな夜半になにをしている」

「………母上にお願いがありましてご相談していました」

皇毅も無表情だが、生き写しのような息子もまた表情の変化が乏しかった。

「皇毅様、この子が医学書を読んでいるらしいのです」

「ほぉ、医学書……」


−−−母の気を惹きたい下心丸だしだな、お前……


言葉には出さなかったが皇毅の上から厭味目線は息子にはしっかりと伝わった。

「母上の腕は確かですのでご指南して頂きたいのです」

それでもしれっと言う息子に玉蓮はすっかり嬉しくなりギュッと息子を抱き締める。しかし途端に皇毅によって引き剥がされた。

「優先順位を弁えるんだな、元々私の医女だ」

玉蓮を抱きかかえ皇毅は踵を返す。

「お待ちください!優先順位なら僕の方が既に上かと思います」

負けず嫌いな息子は二人の後をぴったりついてくる。

「ノコノコと後から出てきて生意気な」

「ほんの僅差かと思います」

皇毅の腕の中で玉蓮は可笑しくてたまらず笑い出す。

「母上の作った五種粥が食べたくなりました」

「玉蓮、私の贈った文を覚えているな」




月夜の晩、

玉蓮と二人だけの時間を過ごしたい父と息子


似た者同士










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