生も死も共に
昔、同じように旺季に頭を撫でられた事があった。
あの頃はまだ十そこそこだったか。
年号は武徳−−−
先王と当時の宰相によって多くの貴族や門下が潰され『紫門葵家』も時間の問題とされていた当時、皇毅も仕官こそしていなかったが学問所や家の庭先で不穏な噂は耳にしていた。
朝廷の動きに対し本家へ葵家の大官達が集まり何やら話し合いを行っていた。
話し合いは遅くまで続き、夜半まで父親の室から漏れていた灯りを今でもよく覚えている。
偽りの誣告があったらしい。しかし証拠も薄い濡れ衣などに皇毅の父達が敗けるはずはなかった。
そう信じていた。
しかし、敗けるはずのない御史大獄で葵家が敗訴した。
−−−通るはずのない誣告が通ったのだ
途端に軍を持たぬ葵家一族は統制を失いだす。まるで烏合の集が乱れ飛ぶようだった。
このままでは葵家男子は斬首、女子は官婢として売り飛ばされると一族の者達が声を上げて狼狽えた。
騒ぎに対し皇毅はどこか夢を見ているように思えたが、忠義を尽くしていた家人達が一目散に荷物を纏めて出ていき始める様子に、尋常じゃない事が起こったのだと、それだけは理解できた。
室を訪ねると父と叔父の声が聞こえる。
『一族を誅滅される憂き目にあうならば、自決させる』
『否、女子供だけでも逃がすべきだ』
目眩がした。
堪らず室に入ろうとした時、叔父の背が一瞬震え、バタリと床に倒れた。
床に赤黒い血が漏れだし広がってゆく。
『父上……』
また目眩がした。
『皇毅、』
叔父を一突きにした眸が今度は皇毅を捕える。
『この父を……人殺しにしたくなくば、自害しろ』
皇毅は反射的に扉を閉めて逃げ出した。
あれは父ではない。あんな事を言う人ではない。
何もかもが間違っている事はわかるが、止める術が分からない。
助けが必要なのに誰に乞えばよいのか分からなかった。
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